第46話 隠蔽の可能性

 僕はこれまでのあらましを離した。


「ふむ、ベリアルねえ。五百年前にはいなかったな。ただ、あれかも知れんな。我らの神を創造した可能性はある。親はよく子に自分の字をあてるだろう。それと同じじゃよ」


「はあ、それよりウリエルさんと知り合いなのに虚飾の神を信仰しているのですね?」


「世渡りの秘訣じゃ。あんちゃん、この世界は古代の神をさしおいて虚飾の神の名が知れている。学術都市がソドムと敵対する訳にはいかんだろう? べリアスもわしとは方針は違えど敵対関係を望んでいない。王国の存在もあるしのう」


「古代の神とは誰なのですか?」


「おっと、そりゃ禁句だ。いずれウリエルから聴けるかも知れん」


「何だか古代都市に行った時、変な丘があったんですが」


「それについてはよーくよーく考えるとええ。ウリエルはな、一筋縄ではいかん。五百年前のあやつの姿を知らんからあんちゃんは平然と触れ合えるんじゃな」


「ウリエルさんはそんなに凄かったのですか?」


「そりゃあ、もうな。べリアスもわしも失禁ものじゃよ」


 ああ、だからあんな怖がっていたのか。立ち向かえたのは虚飾の神位なものだったんだな。


 まあ、ガトリング砲をぶっ放した時点でヤバい天使だとは思っていたけれど。


 お爺さんはベリアルを連呼して呟いていた。


「うーむ、何じゃったかのう? 聞き覚えはある気がするんじゃが、記憶に霞がかかって思い出せん」


「そうですか……」


 メランコリアさんの手がかりはなしか。


「大学都市に着いたら図書館を訪れるとええ。古代の文献もある。尤も……」


 続け様に賢老は語る。


「おそらく、ベリアルの記憶はないじゃろう。わしの記憶に霞がかかっていると言い、やっこさん相当な術者だな。痕跡を消しておる。もしかしたら五百年前の記憶も改ざんしとるかも知れん」


 確かにベリアルから真実を訊き出すには膨大な対価が必要だった筈。それを逆手にとって痕跡を消すのは造作もない様に感じられた。


 となるメランコリアさんの存在も意図的に隠されているのかな? 


 恋する女性を侮ってはいけない。


 恋する女性は大国とも渡り合えるのだから。

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