第30話 勘違い

 まず初めにウリエルと僕の間に見解の相違があったことを認めなければならなかった。御使いは真実を語る。


 だが、その解釈を誤るとしばしばとんでもない方向に行くと僕は少し思い知った。


 皆、あまり喧嘩しなかった。


 それがそもそも解釈の違いだった。


 反乱戦争で失われた都が陥落した後、重要な書物はコボルト族の城塞都市に厳重に封印されているらしい。


 しかし、そうなると新たなる疑問が湧き出る。


「どうして平和な世界があったのに虚飾の神が台頭したの?」


「それが試験的世界のアキレス腱なのですよ。アダムの末裔殿」


「どういうことですか?」


「この世界が試験的であると言うことは神の干渉が極端に少ないことを意味します。失われた都は平和だった、と言ってしまえばそれまででしょうが。多様な解釈とその共存を許したこの世界の発展は次第に緩やかになっていた。もっと平たく言えば戦争の手段を忘却してしまった」


「そういうことですか」


 要するに平和ボケしてしまってゴブリン族に強大な指導者が出た時は時既に遅しだった訳か。


「何と言うか、拍子抜けしたなあ、これじゃソドムに行く意味もなくなったかな」


「あるよ」


 ウリエルが突然奇妙なことを言い出した。


「てきをうちたおすためにしるべきことは、しそー、れきし、しすてむ、あーと、だよう」


 それ、どこの銀河の大提督の科白ですか? 口から出かかった言葉を抑える。


「それを知ることでコボルト族を助けることが出来ると言う訳?」


「うーん、それはついでかな。このせかいのししをむかえにいくの」


「士師?」


 それは旧約聖書の士師記に記される主な人物達の総称だ。ユダヤ人が堕落すると必ず現れ、神の元に引き戻す特別な人物達。それが士師だった筈だ。


「ししはきょしょくのみやこでどれいあつかいされているの。だからファルマコが助けにいくの」


「といってもなあ、何も手がかりがないと」


「ダイジョーブ、ダイジョーブ、神様がみちびいてくれるから」


 ウリエルは気楽だが、本当に大丈夫なのだろうか。


「判ったよ。ウリエルさん。明日に備えて寝よう」

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