第29話 古代の王とは誰?

「本当に済みません……」


「いえいえ、何の。私も楽しいですよ。客人とこの街を歩くのは久し振りですからなあ」


 僕はふかふかの葉に包まれた枝に抱かれ、古代都市を探索していた。巨大樹が器用に根っこを使って建物に張り付いたり、道に優しく根を伸ばしたり、とても丁寧な振る舞いだった。


 しかし、この古代都市、誰のものだ? 特定の種族が支配権を握っている様子はなかった。


 むしろ、多様性に富んだ古代都市で様々な種族が住んでいたのが覗える。


 でも、何だろう? 何処かで見覚えがあるんだよなあ。違和感と言うより、見慣れた感がしっくりくる。


 それにしても街の中はローマ帝国並みの文明を感じさせるのに都市中心部に行く程驚く位質素な建物に変わっていく。


 都市の中央にはそこそこの丘があるだけだった。


 それまで「うわーい」とかふざけていたウリエルが枝から降り、跪きの姿勢を取った。そして、それに続く様にミソロギアも平伏した様な姿勢を取る。


 不可思議なことにそれまで和やかな二人が神々しい何かに平伏す様に清廉とした雰囲気を保っていた。

 

「ウリエルさん?」


「そのさきはファルマコがいってきてねー」


 口調こそ緩いが、その中に絶対的な意志が宿った何かを感じさせる。


 一体、どうしたのだろう?


 仕方がないので丘を少し歩いた。それにしてもこんな辺鄙な場所を都市の中央に据えるとは余程変わり者の指導者がいたのだな。


 だが、丘の上にあるものに気付いた時、僕の表情の疑問符が過ぎる。


「釘?」


 古い古い釘だった。


 この世界の本来の王とは。


「ようこそ、失われた都へ」


 大樹が厳かに告げた。

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