第28話 邪悪な推測

 もし、これを是にするならキリスト教会への最大の背信に等しい。


 キリストの神秘とは穢れなき神が穢れた世界に下り、受肉し、僕として人に仕えられた逆説にこそある。


 詩篇にある「まことは地から萌えいで」とは「真理は地から生じた」と同義であり、そこに旧約聖書時代の知性の最高峰では解することの出来なかったキリストの神秘が存在する。


 だけど、仮に虚飾の神の存在を是としてしまうなら宗教国家の成立も難なく説明出来る。


 つまり、五百年前にゴブリン族にとって神の独り子の様な存在が出現してあらゆる体系の基礎を残していった。虚飾の神がいなくなった後も制度を発展させていったのだろう。


「とーじはこのせかいはおおさわぎでね、すごかったんだよう」


「そんなに凄かったの? その時代ってゴブリン族は少数だったのに?」


「ウリエルもちょっとひいちゃうくらいすごかった」


「へー、そりゃ凄えわ」


 あんだけ派手にガトリングキャノンぶっ放す御使いがちょっと引く位だ。多分、僕の想像を遙かに斜め上を行く様なとんでもない奴だったのだろう。


 ウリエルはちょっとふざけ気味に言っているけど、当時の世界を想像しようとすると笑えない。


 僕達の世界に大昔アケメネス朝ペルシアと言う超大国があった。その国は国力の二十分の一すら持たないアレクサンドロス大王の手により征服されてしまった。


 つまりだ、僕達の世界にも先例がある様に、虚飾の神とやらはとんでもなく恐ろしい指導者だったんだな。


「うん?」


「どしたの?」


「いや、エルフやドワーフは何処に行ったの? て言うか、ドラグーンも黙ってないでしょ」


「エルフもドワーフもこんらんがやになってでていった。ドラグーンはてんねんのさんみゃくにすんでいるよ」


「ああ、成程」


 以前、リリウムが話していたコボルト族の城塞都市付近にドラグーン達が住んでいるのか。それはゴブリン族も迂闊には手を出せないな。


「さて、ウリエルからもんだいです。ここはどこでしょー?」


「古代都市じゃん」


「だれの?」


「え?」


 誰の? その解答は想定外だった。


「たんけんしてみよー」


「ええ……」


 本気ですか? 正気ですか? 能天気ですか? ホーリー・エンジェル、疲れた身体でこの広い都市を歩き回れと?

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