第12話 農家の苦労も考えて下さい
ホットミルクに蜂蜜を加えて啜る幼女は全く説得力がない。酷い幼女だ。丹那の生乳って結構高いんだぞ。
丹那乳業は信徒が始めた事業でとても質の良い牛乳を商品化してくれる。精確には生乳ではないのだけど。
本来、生乳とは搾りたての乳を意味するのだから煮沸殺菌された一般の生乳と比べてまろやかさが段違いに違うらしい。煮沸殺菌するのは安全性からの観点であり、そう言う意味ではこの現実は仕方がなかった。
それでもブランド力は結構ある方で美味しい牛乳を提供してくれる良いところだと思っている。
ウリエルが居ると経費が嵩む。悩みどころの一つだった。
しかも当のウリエル自身が我が家の家計を圧迫していることなどお構いなかった。更に更に言わせて貰えば当のウリエル自身は本当の生乳を望んでいる節がある。
幾らまろやかさが失われているとは言え、衛生観念上の国策だ。酪農家もメーカーも悪くない。そこは諦めて貰うしかない。そもそも、農家が希少になってきているのにそこまで求めるのは如何かと思う。
「後、何度も言うけど生乳啜りながら言っていると説得力がないよ」
「ファルマコはいじわるだ。このミルク、加熱煮沸させているよお」
「性がないでしょうが。国策で煮沸殺菌が決まっているんだから。この時代、農家さん方は皆大変なの! 農家さんだって本当は鮮度が良いものを売りたいけど、色々なルールに縛られているの!」
「うーん、どうして」
「どうしてもこうしてもないの! それがルールなんだから!」
全く物分かりの悪い御使いだ。
「ファルマコはルールにぎもんはかんじないの?」
「ぅ……」
痛い所を突いて来る幼女だ。ルールは確かに守られなくてはならない。だが、これは表向きの話で裏がある。ルールには何らかの根拠となる説があって、更にその説の背後には歴史や宗教が絡んでくる。
問題は最初に発布された法を修正する時、その根源となっている思想、教理とズレが生じてくることだ。
すると国民にひどくややこしい手続きを取らせてしまうのが現代社会の悩みの種の一つである。
ルールそのものは良い。優柔不断な僕にはルールがあった方が動き易い。だが、それ自身が国民の表現の自由を阻害したり、最低限の生活を保障しない場合は別だが。
「つみとはあくをおかすことではない。つみとはぜんにんがあくをみすごすことである」
「はいはい、僕は大罪人ですよー」
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