第10話 頭でっかちな自分。それでいて空気読まない天使

確かにそうなのだ。神の愛、アガペーと呼ばれるものは価値なき者に注がれる無償の愛なのだから。だから、幾ら大胆に罪を犯そうと恩寵は否定出来ない。いかなる人でも天国の扉が開かれている。これこそ基本の摂理なのだ。根拠としてヨハネ福音書やヨハネの手紙が存在する以上、神の愛は否定出来ない。


 そこで罪や律法とかややこしく考えてしまうのが僕の悲しい性だった。根本的なところで人そのものを信じていない。


「でも、いいんだよ」


「えっ」


「ファルマコはそのままでいいんだよ。神様はありのままの人を愛するの。人は悩んで悩んで悲しんで哀しんででね、生きる意味を見つけていくの」


「ウリエルさん……」


 ごめん。滅茶苦茶感動する場面なのに蜂蜜を平らげているウリエルを見ると全てが台無しだ。雰囲気もへったくれもあったものじゃない。て言うか人が仮にも悩んでいる最中に幸せそうに蜂蜜を舐めている姿が舐め腐りきっているとしか思えない。


「せめて話中は蜂蜜ばっかり食べるの止めた方が良いよ」


「ふぇ」


 思わず突っ込むが、ウリエルは意に介さない様子だ。この御使い、決して揺らがないな。今日の礼拝を思い出す。砂の上に建てる家は脆いが強固な岩の上の建てた家は決して揺るがない。


 僕は砂みたいにあやふやだ。そして、ウリエルはふにゃふにゃしているのだげど、岩の様な感じなんだよなあ。それで何処か正論めいたことを言える不思議な幼女だ。


「仕方がない。見守っていくしかないよなあ」


「ファルマコは気付いていないの? メランコリアさん、ウリエルのことみえてたよ」


「えっ」


 それはそれで困る。


「だいじょーぶ、かんえすぎだよう」


「まあ、確かに。ベリアルから説明がいくか」


「うーん、それはないよう」


「どういうこと?」


「ベリアルは真実を伝える際に相手に莫大な対価を求めるの。メタンコリアさんはそれが払えないの」


 それは初耳で困ったことだ。それじゃメランコリアさんに情報入ってこないばかりか誤解が誤解を生みかねない。


「ちなみにウリエルは対価として蜂蜜と生乳を要求します」


「いや、それを言われても困るよ」


 大体、単価として高いものばかりでないか。エンゲル係数が逼迫して家計が持たないなんて洒落にもならない。本当に救いの御使いなのか? 本当は地上に観光しに来たとかじゃないだろうな。


「まあ、破産しない程度に食べる様に。後、一応ウリエルさんを信じてメランコリアさんの件は見守るけど、何かあったら手を貸してよ」


「うーん、それもむずかしいのです。ウリエルにとっては」


「え、何で?」


 唐突な答えに惑う僕だった。。

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