第9話 クリスチャンとして不安だ
しかし、何故ベリアルがよりにもよってメランコリアさんのところに現れたのだ?
「悪魔風情が……メランコリアさんに憑りつこうとするとは良い度胸だな。宜しい、ならば戦争だ」
「それじゃあ、どっちが悪魔かわかんないよう」
武器を取れ。神の国の信徒として戦うべき時が来たのだ。台所から包丁を取り出しに行こうとする。するとウリエルが珍しく慌てて止めに掛かった。
「ファルマコはあせりすぎだよう。たぶんねー、ベリアル好きになっちゃったんだよう」
「誰が誰を?」
「ベリアルがメランコリアさんを」
「はああああ!?」
よく分からない奇声が出た。もう一度聴こう。多分何かの間違いだ。
「誰が誰を?」
ウリエルは若干呆れた声音で溜め息と共に語る。
「ファルマコはにぶいよお。いろこいについては幼女よりにぶいよう」
それは幼女に言われたくない科白だった。
「で、でも、そんなことってあり得るの? 上位の存在が人間に恋焦がれるなんて信じられない」
「そんなこと言ったらネフィリムだって同じだよう」
「………………」
思わぬウリエルの指摘に思わず沈黙してしまう。確かに旧約聖書にそう言った記述があることを失念していた。かつて天上にいた神の子らが下界に降り立ち人間の妻を娶ったと言う。神の子ら、つまり天使と人間の間に産まれたのがネフィリムだった筈だ。
天使でさえ、結婚についてこうなのだから悪魔も緩い制限の筈だ。
「メランコリアさんはそれを知っていてベリアルと付き合っているのだろうか?」
煩悶する疑問だった。尊敬する兄弟であるが、悪魔と付き合っているとなると考えなければならない。悲劇になるかも知れないが、兄弟として悪魔と戦わなくてはならないのではないか?
「ウリエルさん、メランコリアさんは大丈夫かな? 悪魔なんかに言い寄られて地獄に落される危険性はないのか?」
「かんがえすぎだよう。ファルマコ、そんなことをいうとソロモンもファウストも地獄行きだよ」
そう言って寂しそうにウリエルは話す。
「ファルマコは神様の恵みもあわれみを信じていないの? 恩寵も?」
「うっ」
痛いところを突かれた。た、確かに。僕が兄弟の色恋について口に出すのも無礼だが、それ以上に神への不信を見抜かれたところが痛い。
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