第21話 不気味な洞穴

 ウリエルの言葉が脳裏を過ぎった。


「つみとはあくをおかすことではない。つみとはぜんにんがあくをみすごすである」


 寝言を呟いたウリエル。的確な助言だ。それ、前にも聞いたから。


「つみとはあくをおかすことではない。つみとはぜんにんがあくをみすごすである」


 いや、二度も言わんでいい。


「つみとはあくをおかすことではない。つみとはぜんにんがあくをみすごすである」


「本当に寝ているの! ウリエルさん! ねえ! 本当は起きているんじゃない!」


 その時、空の鳥達が陽気に鳴いた。


 ハッと気付いた。向こうに洞窟がある。


 思わず泣いた。神を裏切っていたのは僕だった。不信があった。このまま駄目だと思っていた。


 急ブレーキをかける。


「どうなされました!」


 巫女の声が霞む程、壮絶な光景が見えてきた。


 虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫しかいない。


 蠢く百足の様に木々や地面を這いずり回り、一面がどす黒い地獄が噴出している。ゆらゆらと洞窟の中から揺れる光源を逆光に、飛行する虫たちが列を作って何かを空輸している。僕の視力でも捉えてしまったものがあった。それは、ゴブリンの腕のように見えた。


「あれ……何だ?」


「何がですか?」


 あれが見えないのか?見間違えだったのだろうか、あの地獄は僕にしか見えないのか。ウリエルは眠っているし、表情を見て下手に起こすことは出来ない。


「あの洞窟に行くのは辞めた方がいいと思う」


「アダムの末裔として何か感じ取りましたか?」


「うん、まあ、そんなところ。あそこは危ない気配がする」


 

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