逃げる
俺は、奴と同じ格好で、奴の目の前に飛び出した。驚いた奴は、俺を追いかけ始めた。こうなることは予測済み。俺は猛然と逃げを開始した。
急な加速に、右足が悲鳴を上げる。左足に力が入らない。それでも、俺は追われている。なんとか逃げ切らなければ。
逃げ始めてしばらくすると、沿道の声援が聞こえだした。「大修大学頑張れ」俺の大学名だ。今は駅伝中、奴はライバル。ちょうど見つけた給水所で、奴のぶんの水を取ってやろうとも考えたが、さすがにやめた。スポーツマンシップなんてとっくに捨てたはずなのに、おかしなところで出てくるもんだ。
「おい、お前」
そんなことを考えている間に、奴に追いつかれた。駅伝中だというのに、奴は俺のほうを見て、はっきりとした声で言った。
「なんで俺と同じ格好なんだ」
「だって、同じ大学じゃないか」
「お前は補欠だろう。選手じゃないはずだ」
ふん、と俺は鼻で笑った。
「お前なんかに選手の座を渡してたまるか。ここでは俺のほうが速いはずだ。沿道から出てきたぶん、体力が残っている。意地でもここは俺が走る。それに」
俺は後ろを振り返った。係員が追いかけてくる。
「沿道から出てきた俺は、係員からも逃げなければいけないからさ」
(お題:苦しみの人体)
即興小説置き場 朽羊歯ゾーン @_KushidaZoon_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。即興小説置き場の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます