スキンヘッドのクールガイ

月に一度の老人カラオケ会に、あいつはハゲた男を連れてきた。ハゲるのを気にしている俺ですら美しいと感じるほどの、それはもう見事な禿頭だ。と思ったら、若いころから好きでスキンヘッドにしていたという。洋画に出てきそうな革ジャンとサングラスで、俳優のような渋い声で、彼は言った。

「友達が……ほしいです」

見た目とのギャップに、小柄なおばあさんがくすりと笑う。私も、肩の力が抜けた。

男は私の隣に座り、

「隣……失礼します」

とまた渋い声で言う。一昔前に流行ったJ-POPが流れた。

「あ……私です」

男が勢いよく立ち上がる。と思ったら、目の前のメロンソーダをひっくり返した。

「あっ、すみません……ラララ……愛してルゥ」お手拭きで拭きながら歌ったせいか、「る」までひっくり返った。みんながクスクスと笑いさざめく。男は照れたように小さく会釈した。そんなことが続いて、帰るころにはみんなすっかり男と打ち解けていた。

「いやー、正直、最初は怖い人かと思っていました。ごめんなさいね、誤解しちゃって」

帰りぎわ、私が話しかけると、男は苦笑いをして言った。

「誤解してくれたのなら……嬉しいです」

私が首をかしげると、男はこう言った。

「怖い格好をしていると、ちょっとしたことでギャップが生まれて、勝手に周りが仲良くしてくれるんです。内緒ですよ」

私は、ハゲるのが少しだけ楽しみになった。


(お題:あいつとハゲ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る