第6話 sideカレン

生活が変わり始めたのは、後世の歴史家に笑われるような大敗からだった。

今思えば、トリアス教国から同盟の打診を受けた時に引き返すべきだったのかもしれない。

『天下の鬼才』レオルド・フォン・ハーンブルクに喧嘩をふっかけたサラージア王国は、あっという間に滅亡へと追い込まれた。


敗戦国となったサラージア王国の貴族は次々と捕えられ、投獄もしくは鉱山送りとなった。もちろん、旧王家の1人である私も例外では無かった。

ハーンブルク家の兵士であった事もあり、旧王家の人間は誰一人として逃げる事はできなかった。

拘束された私たちは、秘密裏に新首都であるリアドリアへと運ばれ、投獄された。



✳︎



私たちが別々の牢屋に投獄されてから体感で1週間が経過した。太陽を見る手段が無いので正確な日付はわからないが、だいたいそのぐらいだ。

その必要がないのか、特に取り調べのような事は受けておらず、居心地は最悪だが平穏な毎日を過ごしていた。

脱獄も考えたが、私たちの見張りをしているハーンブルク家の兵士たちは全員、旧王国軍を壊滅させたライフル銃とよばれる新兵器を持っており、すぐに諦めた。

奪取する事ももちろん考えたが、私は実物を見たのはこれが初めてであり、使い方が分からないため、脱獄は不可能と判断した。

もはや、新政府の判断を待つのみであった。

お父様や王太子であったお兄様はほぼ間違いなく処刑されるはずだが、私のような何の役にも立たない元王女ならば助かるかもしれない、そんな淡い期待をしていた。


そして、その日は突然やって来た。


「おい、面会だ、起きているか?」


このままここで一生を過ごすのかなと、諦めかけていたその時、扉がノックされた。

一瞬、自分の耳を疑ったが、間違いなく聞こえた。

私は、少し遅れて返事をする。


「・・・・・・えぇ、問題無いわ。」


一体誰なのだろうか、そして何の用なのだろうか。

少し前に、誰かがこちらの方へと歩いてくる事は音でわかった。だが、まさか真っ先に私の所に来るとは思わなかった。


「どうもこんにちは。」


自分と同じか少し歳下の男の子の声だった。もちろん、聞いた事の無い声だし、明かりに照らされて薄っすらと見える顔も、私の知らない顔だった。


だが、私を訪ねてくる人物が、ただの子供なわけがない。ここで、髪の毛の色が紫色だったなら予想は付いたが、黒髪だったのでわからなかった。


「面会と聞いたから誰かと思ったけど、もしかしてあなたが私を訪ねたの?」


「はい、僕です。と言っても、まだ諦めていない人に会いたいと言ったら、貴方を紹介されたという感じです。」


私が疑問に思った事を尋ねると、彼は普通に答えた。同時に、一緒に投獄されたはずの家族がどのような状態なのかがわかった。諦めていない人と言われて私が選ばれたという事は、私以外のみんなはもう諦めてしまった、もしくは心が折れているという事だ。


私はもう無理だと思った。せめてあと1人か2人心が折れていない人がいれば、まだ巻き返すチャンスはあったかもしれない。かつて一国を統治していたはずの私たちは、奇跡でも起きない限りもうどうしようもない所まで落ちていた。


だが、そんな私の所に奇跡が訪れた。


「僕と協力して、国を創ろうよ。」


最初は言っている意味がわからなかった。

遅れて、言葉の意味を理解した後もなお、冗談だと思った。


「本気で言っているの?」


「うん、本気だよ。」


少なくとも、嘘を吐く要素は一つもない。

向こうは天下無敵のハーンブルク家の人間で、こちらは何の権力も無い敗戦国の元王女だ。

まるで嘘のような話だった。

私が彼の下で働く代わりに、家族全員の命を助けるという内容は、私からすれば奇跡のような内容だった。


私は、今度は迷わずに彼の手を取った。


「えぇよろしく、ご主人様。」



✳︎



それからはあっという間だった。

その日の内に私たち家族は釈放され、私以外のみんなはハーンブルク領とジア連邦共和国の国境線沿いの街に引っ越された。

それぞれに家と戸籍、仕事が与えられ、少しずつ生活していくそうだ。

もちろん、仕事をした経験など無いから、最初のうちは苦労するかもしれないが、牢獄の中に比べたらずっとマシなはずだ。


そして、私はと言うと・・・・・・


「ほ、本当にこれを着て活動するの?」


「うん、兄さんがカレン用に作ってくれたんだ。似合っているよ。」


私は今、私のご主人様となった少年、ユリウス様に命令されて、ハーンブルク領で流行っているという『めいどふく』と呼ばれる服に袖を通していた。


変な格好だなと最初は思ったが、思ったよりも丈夫で、動きやすい。

服のサイズなどもピッタリで、私用に用意された事がわかる。


私はとりあえず、お礼を伝えることにした。


「ありがとうございます、ご主人様っ!」


私は今日から、彼に人生を捧げると決めた。



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どうでもいい話


本編の方で、登場させるか超迷ったキャラその1

カレン・フォン・サラージア


ちなみに『カルイ』さんの方は後から足したキャラです。

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