第5話 仲間

昔、兄さんにこんな言葉を教えてもらった事がある。

『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。』

文字の通り、自分と相手をよく知れば負ける事は無いという意味だ。兄さんが、子供向けの標語作りをしている時に聞いた言葉だが、その意味は心に響くものだった。

現状僕は、自分の実力は何となく把握しているが、ジア連邦共和国の事を何も知らない。


だから兄さんは、ジア連邦共和国の事をよく知っていて、困った時には助けになってくれる人物が欲しかったのだろう。

それが、この課題の答えだ。敗戦国の王家である彼女は、ある意味使いやすい存在だ。

既に、国家は滅んでいるので、裏切られる可能性は低く、革命派の貴族に協力する可能性も低い。

年齢は低いが、王家の1人としてかなりの知識を持っているはずだ。

さらに、後で王家は全員処刑したと発表すれば、簡単には彼女の存在には辿り着けない。

ならば、利用しない手はない。


「僕と協力して、国を創ろうよ。」


僕がそう言うと、彼女は驚いた顔をしながら尋ねた。


「ほ、本気で言っているの?」


「うん、本気だよ。」


こんな所で冗談を言うわけがない。兄さんに上手く誘導された気もするが、これは僕の判断だ。

絶対に必要ならば、最初から用意しているはずだ。兄さんは、一番大事な所を僕に任せてくれていた。

僕は、彼女に向けて手を差し出した。


「上手く誤魔化すのかもしれないけと、私は敗戦国の王女よ?あなた達の敵だったのよ?」


「君の知識と才能は、この国に必要だ。例え以前までは敵であったとしても、裏切らないっていう確信と、確かな能力を持つ君を捨てたりはしないよ。」


これは本心だった。このまま進めば、新政府にとって邪魔でしか無い旧王家は、良くて鉱山送り、最悪の場合は死刑になるだろ。そんなもったいない事はしたくない。


「どうする?ある程度の要望なら応えれるけど。」


「王家全員の命を保障するなら受けるわ。」


「いいよ、これで交渉成立だね。」


僕がそう言うと、彼女は僕が差し出した右手をしっかりと掴んだ。

どうやら、力を貸してくれるようだ。


「あ、そういえば名前を聞いていなかったけど、何ていうの?」


「カレン・フォン・サラー・・・・・・いや、今はただのカレンだわ。」


彼女は途中まで言いかけて、言い直した。もう、サラージア王国の王女じゃない、まるでそう宣言しているかのようだった。

僕も、改めて自分の名前を名乗る。


「僕はユリウス・フォン・ハーンブルク、よろしくね、カレン」


「えぇよろしく、ご主人様。」


これが、最善だったのかどうかはわからない。だけど、間違いなく間違いじゃない選択だったと思う。

彼女は近い未来に、良き相棒となり、良き支えとなってくれるだろう。






「レオルド様、例の件ですが、どうやらレオルド様の思惑通りに事が進んだそうです。」


「ふむ、どうやら良い方に転がってくれたようだな。」


クレアからの報告を聞きながら、俺は先ほど部下に買ってこさせた苺大福を食べながら応えた。例の件というのが、俺の実の弟であるユリウスに出した課題の事である事はすぐに気がついた。


【ユリウス様に才能がある事はこれではっきりしましたね。どうやら、用意していた保険の方は用済みになったようです。】


俺の方でもサラージア王国の王女、カレン・フォン・サラージアが優秀な存在である事は既に調べがついていた、そのため、万が一ユリウスが気が付かなかった場合に彼女を救出するためのプランがあったのだ。


どうやら、必要無かったようだ。


「それで、いかがいたしますか?レオルド様」


「しばらくはノータッチでいい。何かあったとしても、カルイさんが何とかしてくれるはずだ。」


「了解です、引き続き警護を行います。」


もちろん、警備部隊としてSHSも忘れずに配置してある。


「あ、そうだ、アレをユリウスにプレゼントしといてくれ。できるだけ早く。」


「わかりました。」


そう告げると、クレアは執務室から去っていった。

おそらくだが、明日の朝あたりまでには届くだろう。



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どうでも良くない話


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この場をお借りして、お礼申し上げますっ!


それと近況ノートの方で、ある情報を公開しましたっ!是非確認して見てくださいっ!

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