第3話 予測

世間的には、既に辺境の極秘牢獄に投獄中であると発表されている旧王家だが、実は全員ジア連邦共和国の行政府の地下牢に捕らえられていた。

もちろんこの事は、現在のジア連邦共和国における最重要機密になっており、知っている者はかなり少ない。

そもそも、元とはいえ国を統治していた王族を辺境の牢獄に入れるわけがないが、世間的にはそういう事になっている。

もちろん、ハーンブルク家による最大限の監視体制が施されており、脱獄は不可能な状態となっていた。


僕が地下牢へと続く扉までやって来ると、見張り番をしていたSHSメンバーの1人は顔パスで通してくれた。

護衛として付いてきてくれたカルイさんの持つ松明を頼りに、薄汚れた地下へと階段を降りる。

30段ほど降りると、そこにはたしかに地下牢があった。ただ、こちらから見る限りどこも空で、囚人はいないようだった。

最奥部まで辿り着くと、そこには3人の見張りがついていた。

直前まで遊んでいたと思われる兄さんが発明したボードゲームが、机の上に置かれているのが目につく。

すると、僕に気がついた3人の内の1人が慌てて挨拶をした。


「ようこそいらっしゃいました、ユリウス様。」


「ご苦労様です。」


「旧王家は全員、1人ずつバラバラに収監されております。どなたからお会いになりまか?」


誰から会うか、最初から決めていた返答をする。


「一番、諦めていない方からお願いします。」


「・・・・・・わかりました、こちらです。」


そう言うと、彼は30個ほど並んだドアの内の1つへと僕を案内した。

一体どのような人が待っているのか、少し緊張する。

すると、案内してくれた男は扉をノックした。


「おい、面会だ、起きているか?」


男が中で囚われている王家の1人にそう尋ねると、少し遅れてから反応があった。


「えぇ、問題ないわ。」


扉の向こう側から聞こえたのは、女性の声だった。声質からして、おそらく僕と同じか、少し上ぐらいの年齢な気がする。


「どうしますか?扉越しでもいいですし、中に入る事を望むなら我々にそれを止める権限はありません。」


「顔を見て話したいので、開けて下さい。」


「わかりました、反抗するような事はしないと思いますが、一応お気を付け下さい。」


「はい。」


彼はそう言うと、懐から牢獄の鍵を取り出してドアの鍵を開けた。「どうぞ。」と、言われたので、言われた通りに扉をゆっくりと開けた。


「どうも、こんにちは。」


月明かりさえ入らない地下牢は薄暗く、松明が無いと本当に何も見えない。特別に持ってきたランタンに火を入れて、部屋を明るくする。

中にいたのは、予想通り僕と同じか少し上ぐらいの少女であった。長く伸ばした青色の髪に、真っ白な肌を持ち、囚われの身でありながら堂々としていた。


「面会と聞いたから誰かと思ったけど、もしかしてあなたが私を訪ねたの?」


「はい、僕です。と言っても、まだ諦めていない人に会いたいと言ったら、貴方を紹介されたという感じです。」


「なるほどね、で?ハーンブルク家の人間がわざわざ敗戦国の元王女になんの用かしら。」


「どうして僕がハーンブルク家の人間であると?」


彼女は、まだ僕がハーンブルク家の人間である事は明かしていないのに、その事に気づいた。別に隠しているわけじゃないが、少し驚く。


「敗戦国の王家に会いたいという子供は普通居ないわ。いるとしたら、凄く権力を持っていて、旧王家を上手く利用しようとしている人だけ。それに当てはまるのが、ハーンブルク家の人間って事よ。」


「なるほど、確かに君の言う通りだね・・・・・・」


考えてみれば、王家に会いたいと思って会える子供なんて、僕か兄さんぐらいしかいないだろう。

まぁ、兄さんを普通の子供と呼んでいいのかは別だけど・・・・・・


「それで?ハーンブルク家の人間が、私に何をして欲しいのかしら?」


彼女は、見定めるように僕を見た。

同時に、僕も少女の目をしっかりと見つめた。

お互いに、身分は判明しているが、名前は知らないし初対面だ。

だが、僕は1つ、ある予測を立てていた。


そしてその予測は、雰囲気、思考回路などの僅か動きから、確信へと変わっていた。


「革命軍と王国軍が最後の決戦をする時、城門を開けたのって君でしょ。」

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