第35話 地下を行く7 えいりあん?
「ここに突っ立ってても帰れんからな。さっさと進もう」
八神達の前に、ぽっかりと人の手で作られた漆黒の穴が口を手招きをしている。コンクリートの壁を突き破って開けられたのだから、誰かがその先にいると考えるのは当然の帰結だろう。明音を攫った敵がまだまだ存在する可能性も捨てきれない。だが、ここへ来るまでに見つけたのは明音を攫って行った敵、
そう思いながら腰のナイフをいつでも引き抜けるようにと手を添えながらライトの光に導かれるように横穴に足を踏み入れる。
地面を踏みしめる靴底からぴちゃりと耳障りな音が聞こえる。どこかから染み出した地下水が溜まっているのだろう。もしかしたら海水が漏れだしているのかもしれない。そう思うと気が焦りだすが、最悪の事態になってしまったら八神にはどうする事も出来ない。身体を早く進めようと思うが、首を振って落ち着きを取り戻す。
それから一定のリズムを刻んで二つの足音が穴に響き渡る。
しかし、それもすぐに終わりを告げて驚くべき光景が視界に飛び込んでくる。
「って、これは何なんだ?」
「何って、普通の通路じゃないの」
二人の見ている光景は全くの同じだ。
八神は驚愕の表情を浮かべるのに対し、明音は何処にでもあるような光景だと飄々としていた。
そんな明音に対し、不思議がる八神は危険と承知の上で直接壁に手を触れて、改めて自らの考えが正しいと確信を得た。
「って、おまえ、これが普通と思うのか?」
「確かに、土むき出しの穴の先がキチンとした通路が繋がってるのは驚いたけど……。そうじゃなくて?」
二人の温度差がここまで開いていた事に八神は驚き、そして、熱くなっていた自分にも驚き再び明音に尋ねてみた。
「じゃぁ、聞くが。この壁は、床は、天井は、何で出来てる」
手掘りの穴の先。鈍い鼠色で構成されたその通路、一歩踏み入れてみただけでそこそこの知識を持っていた八神であったが、記憶の海にダイブして見つけて来ようにも、同じ記憶が見当たらない。似たような記憶は見つける事は出来たが。
人工的に作られた通路である事は間違いないにしても、現代人が作れないようなオーパーツではないかと思わざるを得ないのである。
だから、明音に尋ねたのだ。通路をぐるりと取り囲んだこの
「何って、普通の金属じゃないの?」
足を踏み入れて見れば何処にでもあるような金属の様な反響音が返ってくるし靴底を押し返す反発力もそれに等しいだろう。ただ、分厚いゴムの靴底や見た目ではなく直接手を触れてみろ、と身振り手振りで明音に示した。
「何よ、急に偉そうに……って、何よこれ!……暖かい?」
八神の態度が気に入らず、不承不承と手を伸ばして鈍い鼠色の壁に手を伸ばしてみる。そして、手の平が触れてすぐ、パッと離して手の平をじっと見つめる。
明音が漏らした言葉の通り鼠色の壁は思っていた温度と違い熱を持っていた。
何処にでもあるような、金属は基本的に熱伝導率が高い。八神達の目の前にあるほどの巨大な構造物を形作っている程の質量を持っていたりする物体に直接手を触れてみれば冷たいと感じるはずだ。それは金属が人の熱を奪っていくからに他ならない。
だが、目の前の壁に手を当てて見ればそれとは逆に熱を感じてしまったのだ。今、地上にある金属ではこのようにはならない、八神はそれが言いたかったのだ。
「そう、暖かいんだ。どうやって作ったか知らんがな。昔のアニメにあっただろう、”我々の科学力ではこれが粘土なのか金属なのかわからないのだ”ってセリフ。それと同じだ。まぁ、金属だってのは俺が見てもわかるが、製法はわからんな」
八神は頭を掻きながら、さも見てきたように説明するのだった。
完全な的外れとは言わないが、例にあるようにそれが正しいだろう。
「もしかして、
「
「
「おまえねぇ、オカルト雑誌を読み過ぎだっての」
誰が作ったのか、謎が謎を呼ぶのは確実だ。そして、今はそれらを結論付ける事はできないし、時間もない。
ただ、一つ言えるのは明音の予想は的を外れていると言わざるを得ない事だろう。見たことのない金属が目の前にあるからと言ってそれを作ったのが遠い遠い銀河の彼方からはるばるやってきた
それに、オカルト雑誌を信じすぎだと八神が苦笑するのもわかるだろう。
それでも八神には一つだけ似たような金属に心当たりがあったが、それを口に出そうか迷いながらも明音に告げる事にした。
「三種の神器って知ってるか?」
「えっと、
「鏡な。とりあえずそれであってる」
日本人として、天皇家が所有する三つの神器、八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉を三種の神器と言うのは殆どの人が知るだろう。だが、それらの実物を見たことがある日本人がどれだけいるのかは不明だ。一説には存在すらしなとさえ言われている。それに各地の神社などにそのレプリカが祭られている事も知られている。
明音は何となく知っていたが、それらが何の関係があるのかと首を傾げて疑問符を頭上に浮かべる。
「俺も見たことは無いがその剣、草薙剣ってのが見たこともない金属でできてるって噂だ。まぁ、眉唾だろうがな」
「それが似てるっての?」
「誰が作ったかわからないって所がな」
噂は噂であって現実とは異なるだろう、それが八神の考えだった。
しかし、噂が存在し、それと似たような物が目の前にあれば噂をある程度信じざるを得ない。天皇家に伝わっている神器と似ているとすれば、古代に製法があったと信じたい気持ちになってもおかしくない。
まぁ、これ自体は調査をする必要があるのでこれ以上考えても無駄なのは事実だ。
「まぁ、これ以上悩む事もないだろうしな。それにこの通路はすぐ終わる。ほれっ」
「あっ、ホントに終わった。何だったのこれ?」
八神達が足を踏み入れた謎の金属の通路は、彼の言う通りわずか数メートルで終わりを迎えた。何のために存在しているのか、存在すら不明で謎を残して。
その先にライトを向ければ再び人の手で掘られた穴が続いてる。ただし、強引にこの通路と繋いだように幾分が不自然な掘り方をしていたのは一目瞭然だった。恐らく、穴を掘った先にこの不思議な金属の通路を見つけたのだろうと予想を立てる。
「さぁ、わからん。とにかく、出口を探すとするか」
しかし、今の目的は出口を探して地上に戻ることである。海底より下の地下で彷徨った挙句餓死してしまった等、笑える冗談ではない。食料があるうちに一刻も早く太陽の下へ出て行きたい、そう切に思うのだった。
二人は揃って歩き始める。
八神はそうではないが、明音はそろそろ疲れが溜まり休憩が必要だと思われた。しかし、敵が何時現れるかわからぬ現状では休んでいる暇はなく、叱咤して進まざるを得ない。
そんな二人を未舗装の地面が痛めつけて行く。硬いコンクリートであれば安定して歩けるだろうが。
そうやって進むこと数百メートル、またしても二人の目の前には不思議な光景が現れる。
先ほどの不思議な金属で作られた通路とは少し違うが、人工の構造物で覆われた通路が目の前に現れたのである。
※明音はエイリアンを地球外生命体として使っていますが、八神は地球上にいた不思議な生命体の意味で使っています。
※三種の神器についてはまったくの予想や願望で書いています。現実はどうかは知りませんので注意してください。
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