第5.5話 明音の回想

 明音の回想です。

 何時もの半分くらいの長さかな~?




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




(これが探偵?ちゃんとやってるのかしら)


 八神真治やがみ しんじが探偵だと知った時に明音が胸に抱いた第一印象がそれだった。


 探偵と言えば有名な著作のホームズやポワロ、それに金田一耕助等、鋭い視線に切れる頭脳、それが定番と思っていた。だが、目の前の男にはそれが一切見られず、ずぼらな格好にやる気が見られない垂れた目元が印象に残った。


 それでも、腰を抜かした明音を背負った学生に毛の生えたような年齢の男に、事務所にいあわせた脂ぎっててかてかと光る皮脂を縫ったくった様な顔をしたオジサンも警察官であったことに驚かざるを得なかった。

 探偵ものの物語、ホームズにはレストレード警部、ポワロにはジャップ警部がいたように、誰かしら警察官が付きまとっているのだから期待せずには居られない。とは言ってもほんの少しであるが。


 ここに来るまで明音は何件かの探偵事務所に足を運んでいた。当然、地元で電話帳に載っている事務所やネット上の評判の良い事務所、そして、個人事務所にもだ。だが、そのいずれも明音が妹の伊央理を探していると知ると、話を聞こうともせずに”まず警察に行け”と話を聞こうともせず、料金の一覧が書かれているパンフレットを持たせて追い返されてしまった。警察には真っ先に行ったと言いたかったが、それを探偵たちの耳に入る前にである。


 明音にとってみれば、話も聞かない探偵と名乗っているだけの守銭奴、との印象を持ったのだが、探偵たちにとってみれば依頼料のほとんどが人件費となり高額なのだから高校生には払えないだろうと高を括っただけだった。飯のタネが必要としているのだから仕方がない。


 だから、話を聞こうとしただけでも八神真治という探偵には少しだけ期待せずに居られなかったのだ。


(期待できそうね。でも、噂通りってことなら……)


 そして、もう一つ。八神にはもう一つネット上でとある噂を目にしていた。

 それは、探偵として仕事はそこそこだが、依頼を解決できなければ料金を一円も請求もしていない事だ。特に人探しに関してはネットの噂の半分くらいが未解決になってしまっているとあった。


 探偵に依頼をする時に、依頼料としてある程度の前金を支払う事がある。どれだけ必要になるかは事務所によって異なる。例えば、ある人の素行調査の場合だと交通費がそれにあたるだろう。

 しかし、八神はそれを一切口にすることなく、おおよその金額を提示して来ただけだった。明音にはそれがとても嬉しく感じた。ネット上にあった依頼の解決割合、そして、その時の依頼料免除、期待せずにはいられない。

 両親に話せば依頼料など何とかなると考えていた。だが、姿を消した妹の伊央理がぶらりと戻って来る可能性があると考えれば、出来るだけ持ち出すお金は少ない方がいいのだ。


(ちょっとだけ期待してあげるわ。こっちは藁をも掴みたいんだから)


 八神の探偵事務所に飛び込んだ時点で、妹の伊央理がいなくなってから既に数日経っている。警察はすぐに捜索すると言ってたが、大勢いる失踪者の中の一人なのだから伊央理だけに人員を裂いて探して貰える確約など無いとすれば、明音が焦るのも仕方ないだろう。


 何にしても明音に出来る事は限られている。

 明音が知り得た情報は全て八神に伝えた。

 後は一刻も早く、いや、今すぐにでも捜索を初めて貰うだけだ。

 だが……。


『とりあえず、今日の所はこれでいい。明日から調査を始めるからな』


 そう八神が口にしたのだから、文句の一つも言いたくなるのが人間だ。

 この時、明音は無能な昼行燈に依頼して良かったのかと疑問を浮かべてしまうのであった。

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