第3話
「並木さんち」3
母親が言うことを聞かない子供を叱っている。それを大人の男が笑って宥めてる。小さな居酒屋で家族でご飯を食べて小さなアパートへ帰っている…男の給料日かな…。長女が仔猫を拾ってきた。皆で可愛がっている。長男が友達の輪の中へ走って行くのを男は見送りながら何故か泣いている。
暖かい涙だ。
母親はそれを見て泣いている。長女は“きもい”と笑っている。
黒い何かの中に見えたのは、祖母との幸せな光景であった。
「貴方は祖母を愛しているのね…祖母が貴方にしたことは、貴方を絶望へ追いやってしまったのね…そして、貴方はミヒロにそうならないで欲しいから私にコンタクトを取ってきたと言うことでしょ?」
「……」
黒い何かの動きは止まった。
「ミヒロは私が護るから…貴方はこの家を永遠に呪えばいい!並木さんちは貴方にあげる!でも、ミヒロは幸せにならなきゃダメなの!私の友達だから!」
「…その子を…自分の道を切り開ける…そんな子にしてやってくれ…」
黒い何かの手がカズキの手を握った。
黒い何かの手は優しく感じたー。
カズキは黒い何かだけじゃないものを感じたー。
比べものにならないほど強い憎悪を感じた。
人間の感情ではない全てを操るような…一つの魂の行く末まで操るような秩序を変える程のヤバさを感じた。
黒い何かは玄関を押し開けた。
「…去れ…この家系は絶対に救えないモノに支配されているのだ…その子には無理だ…馴染めない…苦しむだけだ…お前が…その子を助けてやれ…」
黒い何かはそう言って家の奥へと吸い込まれていった。
カズキとミヒロは走って家から遠ざかったー。
振り返ると、ミヒロの家は赤黒いモノに覆われていた。
辺りを見渡すとあちこちに赤黒いモノに覆われていた家々が解ったー。
ミヒロはカズキの家の近くにアパートを借りて一人暮らしを始めた。
家族とは携帯で連絡を取り合っている。
家族もできの悪いミヒロが距離を取ることでせいせいしているようであった。
カズキは映像関係の専門学校へ行きながら母親のスナックでミヒロと一緒にバイトしている。
ミヒロの祖母は数人の交際相手が自殺した過去を持っていた。自殺の原因はそれぞれだが、祖母の性格に原因があることは解っている。祖父は見て見ぬふりで祖母と結婚した。父は昔から引き籠もりで祖父の援助により歯科医になった。母とは見合いで結婚した。その全てを操っていたのは、祖母が信仰していた宗教である。カズキがみた憎悪はその宗教への信仰の現れであった。ミヒロの父には姉が居て、その姉は若い頃に精神病を患って今も入院している。
おわり
並木さんち 門前払 勝無 @kaburemono
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