第36話 思いがけない再会
ジョシアとエレオノーラはシュタール王国での視察を
今は、グロスター城に向かう馬車の中だ。
もうあと一時間もすればグロスター城に到着するような場所を馬車は走っている。
「そう言えば、シュタール王国では王女殿下がジョシアから離れなくて大変でしたわね」
「僕の何が気に入ったのかわからないけど、ずっと僕に付き纏っていたね。帰国する時、大泣きして、国王陛下夫妻が強引に王女殿下と僕を引きはがしたのはちょっと気の毒だったな。……こんな話をして。もしかしてやきもち妬いてたの?」
「流石に7歳の女の子相手に張り合おうと思わないし、大人げないことは言いませんわよ。でも、王女殿下がジョシアの膝の上に座ろうとする度、そこは”私の席ですわ”と叫びそうになりましたわ」
「エレオノーラがそんなこと思ってたなんて。城に帰ったら、イチャイチャしよう。僕の膝の上も好きなだけ座っていいよ」
ジョシアがエレオノーラにウィンクを飛ばす。
「もうジョシアってば……!」
「ははっ! 照れたエレオノーラも可愛いね。それを言うなら僕だってイグレルモ王国の王子がずっと君の気を惹こうとしていた時、気が気じゃなかったよ。イグレルモ王国は確かに王族・貴族も自由恋愛推奨で恋愛結婚の風潮があるけど、まさか人妻であろうと略奪すれば良いというような考えがあるなんて思ってなかった。しかもシュタール王国の王女殿下と違って、王子殿下は14歳だ。小さい少年が綺麗なお姉さんに憧れるを通り越して、本当に恋愛対象として見ていそうで怖かった」
「確かに王子自ら王宮の中を案内したり、何かにつけては私と二人で出かけようとしていましたわね。やけに必死だなと思っていましたが、やはりそういうことだったのですわね」
「エレオノーラが王子殿下からの誘いを断る度に僕はほっとしていたんだから」
「心配しなくても私はジョシアから離れませんわよ」
二人がそんな会話をしている内に、馬車はもうグロスター城の馬車の昇降用スペースに到着した。
「もう着いたのですわね」
「結構早かったね。さぁ、降りよう」
ジョシアのエスコートでエレオノーラも馬車を下りる。
馬車を下りた二人は帰国の挨拶をする為に、皇帝リチャードに謁見を申し込む。
謁見と言っても、応接室で帰国の報告をするだけなので、謁見の間で顔を合わせる訳ではない。
視察の内容は後日ジョシアが詳しい報告書を作成するので、口で報告すべき重要項目以外はその報告書にまとめ、リチャードに提出することになっている。
謁見を申し込んだが、今日はリチャードの予定はびっちりと埋まっており、日程をずらせない予定ばかりだったので、今日のところは諦めることになった。
明日ならば時間が作れるとのことだったので、謁見は明日になった。
「時間が余ったのでどうしましょうか?」
今はちょうどお昼過ぎの時間だ。
「それならお義父上の屋敷に行ってみる? 今はお昼過ぎだし、屋敷の場所は帝都からほど近いと仰っていたから、先触れを出して、訪問許可さえあればすぐ行けるよ」
「そうですわね。そうしましょう! 私は一旦着替えて化粧直しをするので、申し訳ありませんが、先触れはジョシアにお任せしてもよろしいですか?」
「わかったよ。じゃあ僕が手配しておくね。一時間半後に出発するくらいのつもりで用意しておいてね」
「ありがとうございます。では一時間半後に」
ジョシアは使用人に命じて先触れを出させ、訪問を許可することが書かれた返事を受け取る。
約束の一時間半後。
エレオノーラは先程まで着ていたきゅっとコルセットで締めたぴったりとしたデザインのドレスからゆったりとしたデザインのドレスに着替えていた。
「お義父上から訪問の許可は出たから行こう。馬車の手配もしてあるよ」
「ちょうどお父様は屋敷にいらしたのね。許可が出てよかったですわ」
二人は馬車に乗り込み、現在のサミュエルの住まいであるバーネット侯爵邸を目指す。
馬車で20分も揺られた頃、停車し、到着したと御者から告げられる。
「本当に近かったね」
「思ったよりも近くて驚きました。これならお父様に会いたい時にすぐ会えますわね」
玄関のドアについている訪問者用のベルを鳴らすと執事が出て来る。
「あら、ニコラスじゃない! 帝国に来ていたのですわね」
思いがけない再会にエレオノーラの声が明るく弾む。
サミュエルは希望する使用人は帝国に連れて行くとは言っていたが、誰を連れて行くかはその時点で言っていなかったので、いきなりよく知っているニコラスに会うとは思っていなかったのだ。
「エレオノーラお嬢様にジョシア様、少しお久しぶりですね。私は旦那様について家族で移住しました。私にとって仕えるべき主は旦那様方ご家族なので。妻もこの屋敷でメイド長をしておりますよ」
「まぁ、そうなのね! あなた達がいればお父様もさぞ心強いでしょう」
「さあ、旦那様はお待ちです。応接室へどうぞ」
ニコラスの案内で応接室に向かう。
応接室のソファーに腰掛け、待っている間は紅茶を楽しむ。
「これはオルレーヌ王国でよく飲んでいたもので私が好きだった紅茶ですわ」
「僕はルイズ達が来る前は公爵邸で紅茶を頂くことがあったけど、その時に飲んだ懐かしい味がする」
二人で懐かしい思いに駆られつつ、紅茶を楽しんでいると声がかけられる。
「待たせたな、ジョシアとエレオノーラ。よく来てくれた」
サミュエルが応接室に到着した。
サミュエルとエレオノーラ、ジョシアは無事ルズベリー帝国で再会したのだった。
悪役令嬢の残した毒が回る時 朝霞 花純 @Ouka-K
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