第35話 王国を去る悪役令嬢
オルレーヌ王国での歓迎パーティー終了後、ジョシアとエレオノーラはまた別の国に旅立つ。
サミュエルはパーティーでの宣言通り、今日付けで宰相を辞し、一足先にルズベリー帝国へと向かう。
「お父様。私達はシュタール王国へ向かい、そこの視察が終わりましたら、ルズベリー帝国に戻ります。シュタール王国での視察が今回予定されていた視察の最後の国になりますわ。予定では一週間後位にルズベリー帝国に帰国しますが、予定外の事態が起きたら少し長引くかもしれません」
移動手段の馬車や船は予定していた時間ぴったりで移動可能ではない。
途中山賊に襲われる、馬車の部品の破損、移動に適さない悪天候など予期せぬ事態に見舞われればその分遅くなる。
それに訪問した先の国でトラブルに巻き込まれないとも限らない。
それらを総合的に加味すると予定はあくまで予定ということである。
「わかった。シュタール王国に行く前、最後にクリスティーンの墓参りをしてから行くか?」
「そうですわね。お母様のお墓参りをしてからにしましょう。ジョシア、それでもよろしいかしら?」
「いいよ。僕も夫人にはお世話になったから」
サミュエルとジョシア、エレオノーラは三人で馬車に乗り、クリスティーンが眠る墓地へと向かった。
郊外の自然豊かな場所にあり、日当たりが良く、墓石の周りには綺麗な花が咲き乱れている。
三人は墓石の前に立ち、目を瞑り、それぞれ思い思いのことをクリスティーンに心の中で語りかける。
(お母様。お母様がいなくなってから早四年が経ちました。この四年は長いようであっと言う間でしたわ。お母様が亡くなることになった原因の女はようやく裁かれましたし、お母様を愚弄した国王陛下を含めた王家の面々はこれから緩やかに権威は失墜していくことでしょう。お母様は仕返しなんて望んでいらっしゃらなかったのかもしれませんが、私はどうしても許すことは出来なかったのです。私はジョシアと結婚してルズベリー帝国に居を移したので、もうお母様に会いにここに来ることは難しくなりそうです。ここに来れなくてもお母様との思い出はいつまでも大切に胸にしまってありますわ)
エレオノーラが言いたいことを語り終え、目を開けるとサミュエルとジョシアはもう既に終わっていたようで二人とも優しく微笑んでいた。
「もう終わったか?」
「ええ。もうここには中々来れないと思うと寂しいですわね」
「クリスティーンが大切にしていたものや思い出の品は私がいくつかルズベリー帝国に持って行く。ルイズ達を迎える時に、クリスティーンの実家のアルディ公爵家に全て遺品は預けたが、事情を話してその中の一部を帝国に持って行くことを許してもらった。残りは引き続きアルディ公爵家で預かってくれるそうだ」
「ジョエル叔父様に頼んだのですわね。万が一のことがあってお母様の遺品が全てなくなるなんてことを防ぐ為には全部は持って行かないのが正解でしょうね。そう言えば叔父様とも久しく会っておりませんわね。帝国での生活が落ち着いたら、叔父様一家をルズベリー帝国に招待しましょう。お父様も帝国でお屋敷はお持ちですわよね?」
「そうだ。リチャードから帝国の侯爵位を賜った時に屋敷も一緒に賜ったから持っている。私は帝国に行ったらその屋敷で生活する予定だ。帝都からほど近い場所にあるから、会おうと思ったらすぐ会える。我が家に仕えてくれていた使用人達も希望する者はルズベリー帝国に連れて行く予定だ。アルディ公爵一家を呼ぶ時は私の屋敷を使えば良い」
「ありがとうございます、お父様」
三人はクリスティーンにさよならの挨拶をして馬車を置いてある方へ歩き出す。
その場には優しい風がさらさらと吹き、可憐に咲き誇った花々を揺らした。
三人は再び馬車に乗り、王都まで戻る。
これからエレオノーラ達が向かうシュタール王国はオルレーヌ王国とは陸繋がりの国なので、馬車で移動する。
シュタール王国に向かう為に予め手配していた馬車にジョシアとエレオノーラは乗り込む。
「では、お父様。ルズベリー帝国でまた会いましょう」
「ああ、気を付けて。ジョシア、エレオノーラを頼んだぞ」
「はい、お義父上。お任せ下さい」
ジョシアとエレオノーラはサミュエルに見送られてオルレーヌ王国を後にする。
エレオノーラは何の未練もなく晴れやかな気持ちでオルレーヌ王国から旅立った。
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