第33話 シモンとマリアンの末路

 貴族達が王家を見放すという不文律が人知れず静かに成立したが、王家の面々は残念ながらそれを感じ取ることは出来ていない。


 出来ていなくとも、時間の経過とともに理解していくだろう。



 例えばこのパーティーに参加しているニコラ・ブルイエという貴族男性。


 途中までは彼にとって非常に都合の良い展開だったが、今の彼の心の中はもう既に苦いものでいっぱいだった。



 二コラはブルイエ侯爵家の現当主であり、野心家な面を持っている。


 彼にはアレクシアという娘がおり、アレクシアはイヴァンの婚約者である。


 今日のパーティーにはアレクシアは二コラと共に参加しているが、まだ婚約者という立場でしかない為、王家の一員として王家側で参加していない。



 イヴァンは現状王太子ではないが、もしシモンに何かあった時はイヴァンが王太子になる可能性だって十分にある。


 ブルイエ侯爵家には娘が二人いるので、イヴァンとの結婚はイヴァンが王族籍を外れ、ブルイエ侯爵家に婿に行くという想定で成立しているが、もしイヴァンが王太子になった際は王家にアレクシアを嫁がせるつもりだ。


 そして、アレクシアの父として王宮で権威を振るう。



 そのような心算でいたのに、ここでまさかの事態だ。


 二コラはこのままアレクシアをイヴァンの婚約者のままでいさせるのではなく、体調不良等何らかの理由で婚約を解消しようと心に決める。


 このまま婚約者でいても良いことはないどころか侯爵家にとってマイナスに働く。


 二コラの貴族としての勘がそう告げる。




 事実、二コラの読みは外れていない。



 アレクシアと婚約解消しても新たにイヴァンの婚約者が決まるかどうかは甚だ疑問である。


 よしんば決まったとしてもきっとそれは王家側が望むような家格の令嬢ではない可能性が高い。


 このパーティーでの出来事により、高位貴族達は王家と縁続きになるのは遠慮したいと思っているからだ。


 過去から現在にかけてこれだけの所業をした王家と縁続きであるというだけで他家に距離を取られる。




 ここでエレオノーラが国王陛下に呼びかける。


「陛下。そう言えばまだシモン王太子殿下とマリアンの処遇について、はっきりとしたお言葉を頂いておりませんわ。私は皆様の前で確固たる証拠をお見せして、冤罪で処刑されたことを示しましたわ。冤罪で他人を処刑しておいてまさかこのまま何のお咎めも無し、ではございませんわよね? ここで、今、その処遇についてはっきりと宣言して下さらないかしら?」



 国王はエレオノーラにそう促されたが、内心不愉快だった。


 しかし、彼女を無視することは出来ない。


 過去にシモンが彼女を冤罪で処刑したことと彼女の立場はルズベリー帝国第二皇子夫妻という来賓だ。


 下手なことをすれば、パーティー終了後にルズベリー帝国に帰った後、彼女の夫である第二皇子が皇帝にオルレーヌ王国で不当な扱いをされたなどと報告されたら堪らない。



「皆の者。これよりシモンとマリアン嬢の処遇について発表する。シモンは王太子の資格なしとして廃嫡とする。それに伴い、マリアン嬢も当然王太子妃という地位は剥奪。ただし、二人は離縁させない。廃嫡後の二人の身分は平民だ」


 ここでやっと国王陛下よりシモンは廃嫡し、それに伴いマリアンは王太子妃の地位を剥奪することが宣言された。



 国王は廃嫡してもどこかの貴族にシモンを預けるつもりはなかった。


 では、マリアンの実家の籍に入れてもらったらどうかという話にはなるが、それは不可である。

 

 離縁すれば婚姻以前の籍に戻せるが、離縁していない所謂夫婦の状態では婚姻以前の籍へ戻すことは法律上不可能だ。


 したがって二人は自動的に平民になるしか道が残されていなかった。



 離縁させないというのは、国王からシモンへの罰だ。


 とんでもない相手を妻に選んだことを一生かけて反省するという罰だ。


 シモンかマリアン、どちらかが死ぬまでは再婚が出来ない。



 国王はさらに続ける。


「二人にはさらに刑罰を受けてもらう。シモンは辺境の騎士団で一兵卒として二十年の労役。マリアン嬢は母親と同じく鉱山奴隷として十五年の労役だ。ただし母親とは別の鉱山だ。シモンは二十年の間、一番下の位で昇進は一切なし。衣食住は保証するが無給。以上が二人の処遇だ。シモンとマリアン嬢はこの処遇に異議申し立ては許さぬ」


「くっ、……これが冤罪で処刑した私への罰、か……」


「そんな……。嫌よぉ!!」


 シモンは己のしたことの罰として受け入れたが、マリアンは受け入れないでいる。



 辺境の騎士団は文字通り辺境の地に常設されている騎士団である。


 辺境の地は常に隣国との小競り合いが起きており、危険度が高い。


 それだけでなく訓練内容が厳しいことでも有名で、未だに体罰が風習として残っている。


 貴族令息が何らかの愚かなことをした場合、更生の為に辺境の騎士団送りにすることもある。



 その上これはあまり表には出て来ない情報だが、騎士団では男に貞操を狙われることがある。


 完全な男所帯で、辺境という場所柄、近くに娼館もない。


 ……となればその欲望の向く先は同じ男だ。


 顔立ちが整っているシモンは格好の餌食となるだろう。



 そんな場所にシモンは王太子としての権力を剥奪されたまま派遣されることになる。


 マリアンの方も過酷だが、シモンも決して楽な刑ではない。




 こうしてシモンとマリアンの処遇ははっきりと決まった。

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