第45話 スマホの涙
身も心も疲れ果てた夜に、ひとり台所で洗い物をしていると、スマホがつぶやいた。
「充電が少なくなっています」
ふぅ~っと溜め息をついて、充電器を差し込んだ。
シンクに重い鉄の両手鍋が残っていた。煮物の焦げがこびりついている。水を溜め、重曹とお酢を垂らして、一晩放置することにした。
夜中に喉が渇いてお水を飲みに降りると、充電器に繋がれたままのスマホがシンクのお鍋の中に落ちていた。一瞬、悪い夢を見ているのかと思ったが、夢ではなかった。
完全に水に浸かったスマホの人工皮革のカバーはぐっしょりと水を含んでいる。
慌てて充電器とカバーを外し、スマホ本体をタオルで拭った。
電源は落としていなかったので、本体横のボタンを触ると、画面は明るくなり充電は100%になっていた。
でもまだ安心はできない。最悪のことを考えると、胸がざわついた。
様子を見るためにスマホを傍らに置いて、しばらく本を読むことにした。
気がつくと朝だった。テーブルに突っ伏したまま眠ってしまっていたのだ。
カーテン越しに差して来る日の光を反射して、スマホの画面がやけに眩しく見えた。
手に取ると、ケースも外しているのにひどく重い。
「ごめん。悪かったよ」
私はスマホに向かって心の底から詫びた。
スマホは私の手の中で、一瞬ぶるぶるっと震え、一通のメールを着信していた。
「坪井直さん死去」
するとスマホは、私の手のひらの上で、ぽとりと一滴の涙をこぼしたのだった。
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