第41話 整形の迷い

「私、お金を貯めて整形しようと思うの」

ハーブティーを飲みながら、スージーが溜め息混じりに言った。


 韓国系アメリカ人のスージーは、息子の拓人の友達の母親である。

 ネブラスカ出身のロンとはハワイで知り合って結婚したそうだ。

 ところがロスに住むようになってからロンが大学教授の職を失い、スージーはサンドイッチショップで働くようになった。

 ロンは家庭教師を始め、拓人も週に二回彼らのアパートで勉強を教えてもらっている。

 充分に美しいスージーが、なぜ整形など思い立ったのか、私にはどうしても理解することができなかった。

「整形する必要なんてないじゃない。あなたはこんなに綺麗なのに」

 私はスージーの顔をまっすぐに凝視した。

 スージーが続けた。

「自分自身のためじゃない。すべてエレンのため。ロンに似たエレンは完全に白人の顔でしょう?実の親子なのにちっとも私とは似ていない。私は別に気にしていないけど、エレンは学校で他の子供たちにその事を面白おかしくからかわれるんだって。だから私には学校に来て欲しくないって」

「そんなひどい。先生に相談するべきよ」

私は3年生のクラスの子たちの顔を思い浮かべた。何となくあの子たちのグループじゃないかと言う目星はついた。

「そんなことをしたら、余計エレンがいじめられるんじゃないかと思って。いいの。しばらくは学校への送り迎えはロンに頼んでるから」

 すっかりしょげきったスージーには、いつもの陽気さがまったくなくて、ハーブティーの香りだけが夕闇の迫る部屋に漂っていた。


 それから一月後、スージーからエレンの誕生日パーティーの招待状を手渡された。

「エレンが拓人にぜひ来て欲しいって。他には韓国系の子ばかり招待する予定なんだけど。エレンが僕は韓国人だからって。あ、拓人は親友だから特別なんだって」

 スージーは明るい声で言って、夢中でテレビゲームをしているエレンと拓人の方を見た。

 スージーたち親子の間に何があったのかわからない。

 でもとにかくスージーが元気になったことが嬉しかった。

「誕生パーティー、お手伝いするからね。それとプレゼントのリクエストも教えてね。エレンは誕生日が来る前に、かなり大人びたみたいだけど」

 私がそう言い終わる前に、満面の笑みを浮かべたスージーが「サンキュー」と言いながら私の首に抱きついた。

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