第40話 キャサリンは最強の女

 頑丈なはずのアメリカの家が壊れるかと思うほど揺れた。そのノースリッジ大震災が起きた年の夏、私たち一家は日本に帰国した。

 そうしたらその翌年、ノースリッジ大震災のちょうど1年後である1995年1月17日、同じ日に阪神大震災が起きた。

 当時キャサリンは、広島市中区袋町公園横にあるIビルに住んでいた。フォードからやって来てマツダの社長を務めたウォレス氏やフィールズ氏も住んだ界隈では有名なビルである。

 キャサリンは白人女性にしては小柄で150センチそこそこしかなかったけれど、とにかく行動力や決断力の速さにおいて、人並み外れた度量を持っていた。

 阪神大震災直後のまだ道路も復旧していないかも知れない時に、自分の車に積める限りの支援物資を積んで、単身被災地に乗り込んだのだ。

 周囲の者は、片言の日本語しか喋れないキャサリンを止めようとしたが、

「大丈夫。向こうに行けば教会の仲間に会える。神様が守ってくださる」

と、耳を貸さなかった。


 キャサリンほど冒険心溢れるアメリカ人を私は知らない。

 日本にいるとき、1ヶ月間のシルクロードの旅に出た。キャラバン部隊に同行した羊を食糧としながらの旅である。

 アメリカに帰国してからは、一年の半分をミシガンで水上スキーをし、残りの半分をウズベキスタンの難民キャンプでボランティアをして過ごしていた。

 キャサリンから最後のクリスマスカードが届いて、もう10年が過ぎる。

 この時期にはよくハロウィーンのグッズを送ってくれてもいた。

 だからハロウィーンが近づくと、キャサリンのことを思い出さずにはいられない。

 キャサリンは、いかに他人の痛みを分かち合うかを教えてくれた人だった。

 優しさこそが最強の武器であるなら、間違いなくキャサリンは最強の女なのである。

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