第28話 死に至る病と詩に至る病

 これは詩と言う形の実話です。

父は白血病で亡くなりました。

今日は父の命日です。

父は死に至る病で亡くなりしたが、

私はどうやら、詩に至る病にかかっているようです。


       骨


コンロの上で母が父の足を焼いている

目が醒めて

チャーチャンは と幼い私が聞くと

雪のお山に行ったよ と母は答えた


夢を見た日

父が山から魔法瓶に入れて持ち帰った

一握りの冷たく白い塊は

てのひらでみるみる溶けていき

私の中で父の温もりも溶けていき

深い森の香りが微かに残った


父の足はスキーの板

腕は海原に伸びた釣り竿

目は一つ目のカメラ

脳は小さな家を埋め尽くす蔵書だった


還暦を迎えた父の骨はベッドの上で

点滴につながれて生きていた

骨は父を支配し 骨でありながら

感情を持っていた

骨はもう海にも山にも行けなくなって

重い扉のむこうで焼かれて焦げていった


母が遠い山の頂を見て立ち尽くした秋

私の膝の冷たく白い壺の中で

骨がからからと音をたてて笑っていた

その日から 骨の父は私を愛し

父の骨を私は愛した



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