第7話 非国民の私たちはシルバーウィークに

非国民の私たちは

緊急事態宣言下のシルバーウィーク


戦艦大和が建造された港にある

テニスコートでテニスをする


ロブを打ち上げると

テニスボールは

9月の空に吸い込まれ

フェンスを越えて海へと向かう


届かない海の声

あの日の記憶


私たちが生まれる前の

遠い海の記憶


そこにある戦艦大和は

この丘に咲く桜の花に見送られ

敗戦の色濃い春の日

この海を出港して行ったのだ


失くしたテニスボールを追いかけて

たどりついた海で

その幻を目に焼き付ける


あの日

ここを出て帰らなかった者たちの

声を乗せた風が

すっぽりと私の手におさまる


そして

非国民の私たちは

何事もなかったかのように


またそのボールを

時空の狭間に

打ち返し続ける




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