第50話 前哨戦

「みんな、よく集まってくれたわ」


 アパートにて。

 妖子さんがなぜか俺の部屋に半妖たちを集めた。


 カミラ、つらら、大嶽丸のスズカ、そして酒呑童子の伊吹だ。


「今日はこのメンバーにここのゴミを加えて、六対六の合コンをするわ。相手は手ごわいけど、みんな這い蹲ってでも酒を呑むように。以上」


 嘘みたいな話だったが、みんなは一斉に「おー!」と。

 やる気を出していた。


「おいつらら、これはマジなのか?」

「なにいうてんねん。うちら半妖はいつの時代もこうやって覇権争いをしてきたんや。酒も飲めん妖怪なんて闘うまでもない。それがルールや」

「でも、精鋭っていってもお前とカミラ、めっちゃ酒弱いだろ」

「うちらは飲み要員やないねん。盛り上げ役や。飲むんは妖子ちゃん、スズカ、伊吹やな」

「じゃあ、俺は?」

「合コンいうたら男もおらんとあかんやろ。ってわけやからメンヘラがおったら須田っちに預けるわ」

「……」

 

 俺、コンパに参加するの初めてだけど、多分これは違うと思う。

 コンパの意味を、絶対間違えてると思う。


「ええと、向こうはもしかして男の半妖がくるのか?」

「なに言うてんねん須田っち、男は自分一人やで」

「あの、コンパ、だよね?」

「せやせや」

「……」


 まあ、男の俺とすれば夢のような飲み会だけど。

 果たしてこんなもので東西の因縁とやらに終止符をうつことができるのか?

 いや、やることなすこと全部適当なこいつらのことだ。

 もう、流れに身を任せよう。


 結局。

 向かったのはいつもの居酒屋。

 先に個室について待っていると、やがて相手のメンツが到着する。


「あら、須田君もいたんだ。お久しぶりね」

「優さん……」


 先頭にいたのは天狗。

 しげぴーの一人娘。

 有栖川優。


 そして後ろから三人の美人さんが続く。


「あらー、今日はまた豪華なメンバーね」


 お嬢様のような見た目。

 その子は自分のことを「鵺なのよ私」と。


「酒飲むぞー」


 元気よく入ってきたスポーツ少女風な彼女は。

 見た目どおり元気よく「ぬらりひょんのひ孫なのー」とか。

 これは何かにひっかかりそうだ。


「ブスばっかりね」


 高飛車なキャバ嬢みたいな女の子。

 彼女はエラそうに「濡女よ」と。


 有名な妖怪ばかりだ。

 いやしかし、皆揃いも揃って美人。

 西の妖怪も美女ばかり、なのか?


「じゃあ、今日は東西の決戦ということで。須田、音頭をとって」

「あ、ああ。ええと、では皆様、今日は遠路遥々」

「長いわよ。かんぱーい」

「かんぱーい!」


 さてどうしたものか。

 妖怪たちの飲み会が始まった。


 これは一気飲みの応酬かとも思われたが。

 しかし皆、平和に和気あいあいと飲むだけ。


 ……もしかして、このまま平和に終わるのでは?


「でさー、この前会った男がマジでうざくって」

「わかるー。妖子ちゃんって昔から男運ないよねー」


 楽しそうな会話に、俺も自然と気が緩む。


 カミラは間違えて酒を呑んだ後、血を飲もうとしたところでつららに気絶させられてリタイア。

 そのつららも、すぐに酔いが回ってリタイア。

 お前ら、飲まないって言ってたのに……


「ぎゃははは。それさいこー」

「大将、日本酒おかわりー」


 それでも。

 たのしい宴の時間は続く。


 この調子なら、勝敗なんてどっちでも良さそうだ。

 きっと、何かのプライドをかけただけのもので、みんな本当は争いなんて好まないんだ。


 なんだ、俺は少し妖怪のことを誤解していたな。

 そっかそっか。うんうん、俺もそろそろ会話に混じろうかな。


「あら、優ったらちょっと酔ってないかしら」

「そういう妖子ちゃんこそ。顔が赤いわよ」

「私はこの店の酒を全部飲んでも平気よ」

「私だって。ていうか自信ないから酒呑童子とか呼んでるんでしょ。情けない狐ね」

「言ったわね。スズカ、伊吹。あんたら帰りなさい」

「えー、まだ飲み足りないのにー」

「しげぴーのツケで飲める店があるからそこであいつが破産するまで飲んでなさい」

「あーい」


 じゃあ失礼と。

 一升瓶を二本、ラッパ飲みで片付けた最強の鬼二人はさっさと居酒屋から出て行った。


 そして、西の妖怪たちも皆、ベロベロになって突っ伏して眠ってしまった。

 

「さてと。優、あなたと決着をつける時がきたわね」

「ええ。妖子ちゃんには負けないから。私、高校時代の因縁は忘れるつもりないし」

「むしろ助けてあげたというのに、よくそんなことが言えたわね」

「笑わせないで。鳴人も、松原君も、みんなあんたのせいで私から離れていったってのに」

「あなたが先にひどいことをしたから見限られただけよ。それを人のせいにしないでくれる?」

「あ、そ。じゃあ仕方ないわね。この酒を先に飲み干した方が」

「ええ。いいわよ」


 二人が。

 焼酎の瓶をラッパ飲み。

 そして、苦しそうになりながらも。

 妖子さんが先に飲み切った。


「ぷはーっ! どうよ、私の勝ちね」

「ぐっ……おえっ。し、仕方ないわね。今日はこれくらいにしててあげるわ。でも、逆転してやるんだからね」


 そう言って。

 天狗は他の妖怪を連れて消えた。


「あー、吐きそう……」

「妖子さん、勝ったじゃん」

「ああ、ゴミ。勝ったから、うちら、の、陣地で、戦える、わね」

「な、なんの話だ?」

「え、明日が本番、よ……東西の覇権を賭けた大戦争……その開催地を決めるのが今日の飲み会だって、あれ、言わなかったっけ?」

「え、じゃあ戦争は」

「やるに決まってるじゃない。あー、なんか眠くなってきた、おやすみ……」

「お、おい」


 ……開催地決め、だと?

 え、これが本チャンじゃなくて?

 明日、戦争だと?


「おいつらら、どういうことだよこれ」

「うーん、もう飲まれへんて須田っちー」

「……おいカミラ」

「血の、におい……」

「……」


 どうやら。

 俺の見積もりはやはり甘かったようで。


 どういうわけか知らないが。


 明日、東西の妖怪たちによる戦争が勃発する。


 ……らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る