第40話 今度もまた大物
「あなたの力は覚醒しないように私が封印してるわ」
「……なんだと?」
居酒屋でビールを一杯飲みほした妖子さんが、どや顔で。
「だって、危ないもの。妖怪全部を支配する力なんて私一人で充分だし」
「え、封印ってことは、じゃあ俺はモテモテのハーレム主人公には」
「なれない」
「じゃあ、半妖美女たちからあんなことやこんなことを」
「されない」
「もしかして俺の周りに美女たちがウヨウヨ」
「しない」
「ガーン……」
なんということでしょう。
俺の夢は、あの古アパートと同じように。
ガラガラと崩れ去った。
「あなたみたいなゴミにそんな力持たせてたら大変なことになるでしょ。会った次の日に封印したわよ」
「で、でも封印ってことは解けるんだよね? なにかきっかけがあれば」
「ええ、あなたが死ねば来世では」
「……終わった」
というわけで、俺の壮大なるハーレム計画は水の泡と消えた。
となればだ。やっぱり天狗の要求をうけてよかったのではという話になる。
「俺、あんな美人からの誘い断ったんだぞ? なのにそれはないだろ!」
「八つ当たりすんなゴミ。それに優は性格悪いわよ? 幼馴染を捨てて目先のイケメンに走って、でもやっぱり幼馴染がいいなって思ったからイケメンを囮につかって結局二兎を追うもの一兎も得ずって感じで、発狂して悪事を働いて、最後なんやかんや和解した風になったけど結局天狗になって喧嘩売ってくるという悪女よ」
「それ訊いたらやめといてよかったって思うわ……」
なんちゅう女だよそれ。
「でも、あの子があんたに接触してくるなんて、決着の日は近いわね」
「戦争するのか?」
「そうね。今はあの子と掲示板で壮大なレスバトルしてるとこだけど」
「ずっとそれやっとけ! ていうか、そんなことして勝敗が決したとして、どうなるんだ?」
まあ、勝った方が負けた方を支配できるとかそういう話なのかもしれないが、その後はどうする気だ。
まさか、人間と戦争を……
「我々は人間社会に進出する」
「やっぱり!」
「なんちゃって。嘘よ、そもそも私たち半分は人間だし。別に迫害を受けているほどでもないから不満もないわ。でも、少なからずそういうことを考えている輩もいるってこと。自分が妖怪だから、人間じゃないからという理由でひどい目にあって人間社会を恨み、やがてそういう一派に取り込まれてしまった半妖たちはたくさんいる。そういう勢力を一掃するためにやってるのが優との戦争であって、今私たちがやってる仕事でもあるのよ」
「え?」
俺たちのやってる仕事が?
そんな壮大な話だったってこと?
「私たちの大学には全国から半妖が集まっているから、それなりに不満を持つ子も多いわけ。その子たちが暗黒面に落ちないようにするってのが本来の私たちの目的というわけよ」
「そ、そうなんだ。でも、なんでそんな理由があるなら教えてくれなかったんだよ」
「え、あなたって難しそうな話とか理解できそうに見えなかったし」
「それくらいわかるわ! どんなふうに見えてたんだよ俺の事」
「そもそも見えてなかったけど?」
「え、こわいわ!」
「あ、ごめんなさい見たくなかったの間違いね」
「余計いやだわ!」
なんだよ見たくないって。
俺をみると命が吸われるのか?
もしかして川姫なのか? 俺は、川姫なのか!?
「バカなこと考えてないで、あなたは今まで通り仕事しなさい。それだけよ」
「……で、仕事っていっても最近はもらい仕事ばかりで依頼がないような気もするけど」
「さっそく大きな案件をもらってきたわ。天狗に次ぐ、大きな案件よ」
「へえ、それはまたすごい。で、次の妖怪は誰なんだ?」
そう話すと、妖子さんがまたビールをグイッと飲んでから。
少し据わった目で見てきて、言う。
「大嶽丸よ」
それは鈴鹿山に居を構え、日本を魔国にするために悪逆非道の限りを尽くしたと言われる日本三大妖怪の一人。鬼神。
ちなみにもう二人は、酒呑童子と九尾の狐。
日本最強の妖怪と言われるその妖怪の登場はやはり平安時代。
氷の武具を作ったり、分身したりとその力はすさまじく、しかし最後は藤原俊宗という武将によって討たれる。
さらにこの鬼、鈴鹿午前という天女に一目惚れしていたとか。
しかしこの天女、実は天からの刺客。藤原俊宗と共闘しただけでなく、最後は俊宗とくっついちゃったとか。
いやあ、なんとも恋愛においては悲しい鬼神だなあと。
そのおかげでこの伝承はよく覚えていた。
「でも、死んだんじゃないんですか?」
「実は子孫がいたのよ。その子孫がこの大学にいるの」
「とんでもない学校だな……まさか酒呑童子まで出てこないよね?」
「いるわよ」
「いるの!?」
「ええ、テニサーに」
「テニサー!」
なにやってんだよ!
間違ってもそいつお持ち帰りすんなよ!
「で、そいつがなんの依頼だ? まさかご先祖様よろしく恋愛で拗らせてないだろうな」
「そのまさかよ。最近好きだった人を大学の先輩をとられそうだから、世界を滅ぼそうかどうか悩んでるみたいなの」
「失恋の代償がえぐいわ! いや、早く連れてこないと」
「そう言うと思って、もう呼んであるわ。あ、来たみたい」
妖子さんが入り口を見ると、ガラガラと居酒屋に女性が入ってくる。
その姿に俺は、思わず見蕩れる。
「あら、妖子ちゃん。遅くなってごめんね」
もう地面につくのではないかというくらい長い黒髪の、背の高い色白美人。
この人は多分、モデルとして億は稼げると、何も知らない俺でもそう確信するほどにスタイルが抜群だ。
「あらスズカ。今日は和装じゃないのね」
「妖子ちゃんは相変わらずね。で、そちらの方が」
「あ、はじめまして。あの、須田です」
「え、ゴミさんじゃないの?」
「このくそ狐め!」
自己紹介で躓いた。
しかし大嶽丸の子孫だという美女はクスクス笑っていた。
「妖子ちゃん、私を励まそうと思ってこんな人連れてくるなんてさすがね」
「あら、わかるのね。さすがスズカといったところかしら」
「あのー、俺がなにか?」
「あら、須田さんの見た目ってなんか言い表せない残念感で満ちてるでしょ? だから私もあなたをみたら少しは自分に自信が持てるんじゃないかっていう妖子ちゃんなりの励まし方ってことよ」
「……」
なんか当たり前みたいに言われたから一瞬考えたけど、しかしとんでもなく失礼なこと言われたよな今。
「あの、俺ってスズカさんから見たらどういうふうに見えてるんですか?」
「見てるだけで吐き気を催しそうだけど、でもまあ世の中こんな人でも強く生きてるんだから私もちょっとは頑張ってみようかなって思わせてくれるような感じに見えてるわよ」
「死にたい! 今この瞬間強く生きる自信をなくしたよ!」
ボロッカスだった。
今までで一番、というくらい。
「妖子さん、死にたい……」
「バカ言ってないでしゃんとしなさい」
「で、妖子ちゃんは私をどうやって助けてくれるの?」
「そうね。あなたの好きな人と両想いにさせたらいいんでしょ? 私たち、そういうの実績もってるから」
得意そうに言うが、しかし実績と呼べるか?
カミラの件は結局失敗だったし。
「そっか。でも私の先輩を狙ってる子が結構美人なのよ」
「あらそう。ちなみにその先輩とやらは人間?」
妖子さんが聞くと、スズカさんは首を横に振りながら言う。
「
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