第39話 俺の力?

「なん、だと?」

「簡単なことです。彼女たちと関わらなければそれで、私のことを好きにできるんですから。その英断を下してもらえたら、私は喜んで須田さんのものになります」

「な、なんでそこまでして俺を……」

「みんな、あなたのことを過小評価しています。あなたはそんな器じゃない。私の伴侶になれば、もっと素晴らしい才能を発揮できるし、私も天狗である必要もなくなるし、一石二鳥というわけです。つまりはウィンウィンです」


 天狗らしからぬ彼女は、そう言って笑う。

 俺は、正直言って、迷っていた。


 妖子さんたちとの日々を思い返すと、それはそれはひどいものばかりだ。


 毎回死にかけるし、女には騙されるし、最後にはゴミだのカスだの言われて。

 金もないし、学校にも行けないし。お先真っ暗でしかない。


 最近は家も失った。

 変な神様に言い寄られたり、吸血鬼が酔っぱらって血を吸いにきたり、関西弁の雪女が危ない女紹介してきたり。


 いいことなんてなにもない。 

 この子についていっても、もしかしたら同じようなことが待っているとしても。

 こんな美人な彼女がついてくるのならおつりも来ると言える。


「……」

「何を迷うことがあるんです? もう、妖子ちゃんたちにひどいことされる心配もなくなるんですよ? 念願の彼女もできますし。それとも私では不満?」

「そうじゃないけど……」

「あの人たちはあなたをいいように利用してるだけです。でも私は違います。あなたが必要なんです。一度くらい、誰かに必要とされる人生を味わってみたくないですか?」

「それは……」


 思えば、誰かに必要とされたいがゆえに始めた仕事だ。

 だからこうして、俺を頼ってくれる人のところにいくのは本望なのかもしれない。

 俺にとってはそれこそが幸せなのかもしれない。


 でも……


「ごめん。俺、あの人たちとは縁を切れない。仲間を、裏切れない」

「……そう。あなたって、結構ドエムなんですね」

「ほっとけ。俺だってあんな扱いは嫌だよ」

「でも、敢えてその世界に身を置くと」

「ああ。あいつら全員を惚れさせるまでは意地でもかじりついてやる」


 多分、この選択は間違ってる。

 でも、そもそも存在がでたらめな俺だ。

 選ぶ道も人と違ってたって、いいだろう。


「じゃあ、交渉決裂ですね」

「……ここで戦争を始めるのか」

「いいえ、しばらくは休戦です。でも、いずれまたあった時は、その時は敵同士です」

「望むところだ。俺はやってやるからな」

「じゃあこれで。今日は色々とすみませんでした」


 美少女は、そのまま店を出て行く。

 すぐにあとをついていくと、彼女は店の前で、人がいないことを確認すると背中から。


 大きな翼を出した。


「うわっ」

「これが私の力です。飛べるのが便利なんて、最初だけですけどね」


 そう言って、彼女は悲しそうな顔をしてそのまま空に飛び立った。


 あっという間に、その姿は見えなくなった。



「……という感じでした。教授、本当にすみません」


 今日、天狗とかわしたやり取りを教授に報告。

 でも、解決できなかったことに対してまず、謝罪した。


「いや、頭をあげてくれ。君は悪くない。優のやつ、本気のようだな」

「本気? 何か企んでるんですか」

「もう隠すのはよそう。須田君、君には特殊な力があると言ったがそれは、何も霊視ができるとかそんな単純なものではないのだ」

「と、いいますと?」

「君は、妖怪を束ねる力がある。つまりは、妖怪の長になりえる力だ」

「……へ?」


 急な展開に思わず声がでる。

 俺が妖怪の長? 束ねる力? なにそれ。どんなファンタジーの主人公?


「信じがたいのかもしれぬが、そうなのだ。しかし覚醒半ばといったところかの。君が真の力を発揮すれば、あらゆる妖怪は君の手足となろう」

「つ、つまり俺のその力を知って、優さんは俺を」

「そうだな。そして君の力のおかげで、今までも様々な半妖たちが君のところにあつまっておる。もしかすれば、覚醒の時は近いかも」

「も、もしそうなったら……俺はみんなを支配できるってこと、ですか?」

「無論。あんなことやこんなことをやっても、誰も文句は言うまい」

「……ひょー!」


 また。

 思わず絶叫してしまった。


 いやあ、さっきまでは実は激しく後悔してました。

 仲間とかなんとかいって、あんな美人の誘いを断ったことを悔やんで悔やんで、死にそうになってました。

 

 でも、そういうことなら話は別。

 俺は力を覚醒させたら半妖美女たちとのハーレムを築けるというのだから。

 あー、一人の女の子に縛られなくてよかったー!


「で、どうやったら力が覚醒するんですか?」

「うむ。それがよくわからんのだ。もう覚醒していてもおかしくないはずだが」

「俺、家に帰って色々調べてみます! なんか元気でました、ありがとうございます!」

「お、おう」


 というわけでダッシュで家に帰る。

 足取りが軽い。

 そりゃそうだ、俺が散々嫌な目に合ってきたこの特異体質が、実はとんでもなく素晴らしいものだったのだから。


 しかも覚醒は近い? もしかしたら既に、あいつらの何人かは俺に惚れちゃったりしてる?

 いや、りんさんがそうなんだからきっとそうだ。

 あー、なんかワクワクしてきた。カミラでも誘ってみようかなー。


「あら、須田君?」

「お、カミラ。ちょうどいいところに」


 正門辺りで、吸血鬼に遭遇。

 でも、今の俺は自身に満ち溢れている。


「カミラ、俺とお茶しないか」

「え、いいですキモいので」

「……あれ? なあ、俺の事、実は好きとかそういう話って」

「ありません。なんですか急に。まだ酔ってるんですか?」

「……失礼しました」


 どうやら、吸血鬼にはまだ俺の力が伝わっていないようだ。

 なら雪女だ。あいつは案外俺のこと好きだろう。


「そんなに急いでどないしたん須田っち」

「出たなつらら。お前、俺とデートしろ」


 もう、どこぞのプレイボーイのように、帰り道で遭遇した美人な雪女をナンパ。


「……え、頭打ったん?」

「な、なんだよ。いいだろデートくらい」

「いやや。須田っちすぐにスケベなこと考えるからいやや」

「なんでだよ。俺だよ? 須田春彦だよ?」

「しつこいと凍らせてどぶに捨てるで」

「……失礼しました」


 おかしい。

 まだ雪女にも俺の力が……


「あらゴミ、なにしてるのよ急いで」

「妖子さん……あの、俺とデートとか」

「何わけわからないこと言ってんの死にたいの?」

「うっ……」


 全然だめでした。

 いや、どこが覚醒近しだよ! 全然だめじゃんか!


「はあ……」

「あなた、優の誘いを断ったそうね」

「え、まあ、それは」

「一応、それは褒めてあげるわ。ゴミからチリくらいに昇格かしら」

「どっちがいいんかわからんのだけど……」

「それより、今から飲みにいくんだけどあなたもくる?」

「え、いいの?」

「いつものことでしょ。ほら、行くわよ」

「……はい!」


 なんかフラれっぱなしだったけど。

 いつもの調子だったので少し安心した。


 ただ、俺の力がなぜ覚醒しないのか。

 その理由についてはまだ……


 と、いいたところだったのだが、この話にそんなシリアスはなく。

 妖子さんにさっさとネタバレを喰らうのである。

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