第33話 誰か手を貸してくれ
「須田っち、新聞みたで!おめっとうさん」
学生新聞の影響はどの程度なのかと、その影響について懐疑的であったが、しかし結構みんな見ているようで。
さっそくつららが嬉しそうに俺の部屋にやってきた。
「あのさ、これはガセネタだ。違うんだよ」
「またまたー、この冴えへん顔は須田っち以外おれへんて。なんやこの部屋で狐とズッコンバッコンやっとる思たらやらしいてしゃーないわ」
「してない。俺はまごうことなき童貞だ」
「いばることちゃうで……」
でもまあ、学校創設以来の美女と名高い妖子さんとのスキャンダルは、モブな俺にとっては名誉なことなのかもしれない。
それでも、やはりなんとかしなくてはならない。
なぜなら、この誤情報を消さなければ俺が消えるから。
「つらら、たぬきの噂訊いたことないか?」
「たぬき? 大阪の十三にやったらでっかいたぬきの人形置いとる店とかあったけどなあ」
「今回の悪戯の主はたぬきらしいんだ。そいつを見つけるの、手伝ってくれ」
「えー、それお金でえへんやつやろ?うちはパスや。帰って寝るで」
「手伝ってくれないの?」
「もちのろんや。銭にならへんもんは基本やらん主義やさかい。ほな、さーなら」
「……」
今回はつららの手を借りることはできなかったようだ。
となればもう一人。
使いたくはなかったがカミラだ。吸血鬼の力を借りよう。
というわけで電話で彼女を呼びだす。
◇
「なんですか須田さん。急に女子を家に呼びつけるなんて」
「カミラ、俺と妖子さんのスキャンダルは訊いたか?」
「はい、見ましたよ。やっぱりなーって思ったくらいですけど」
「納得すんな。あれ、たぬきが仕掛けた嘘なんだよ」
「たぬき? なんでたぬきがそんなことを?」
「知るかよ。それより、見つけないと俺が殺されるんだよ」
「あー、なるほど。でも、いいんじゃないですかそのままで。どうせ、みんな二人はデキてるって思ってますし」
「それ、絶対妖子さんの前で言うなよ」
殺されるから。
でも、確かにたぬきの目的がわからない。
嫌がらせにしては少々チープすぎるし、どうも狙いがはっきりしない。
「なあ、カミラは手伝ってくれるか?」
「遠慮します。お金になりませんし」
「お前も金かよ」
「地獄の沙汰もなんやらというでしょう。お金は人と人を繋ぐ大切なツールです。ていうかそれがなければ須田さんとは誰も繋がらないでしょうし」
「……」
というわけで、カミラも帰宅。
わかったことといえば、俺に人望なんてものは一切なかったという事実。
どうなってんだこれ!
自らの嫌われ者具合に思わず「なんて日だっ!」と叫んでしまった。
そして結局、夕方まで協力者は現れなかった。
◇
授業に行く習慣が一切身についておらず、部屋でぼーっとしているところにまた、訪問者が。
「須田君いる?」
麒麟だ。
「りんさん、どうしました?」
「あの、新聞みたんですけど」
「あ、いや、あれは誤情報だから」
「へえ。でも、こんなうわさが流れるくらいには、狐と仲いいんだ」
「目が怖いよ……あの、聞いてる?」
「でも、狐が死ねばこんなうわさ消えるもんね。ねえ、どうしたらいい?狐を殺すか、私と一緒に天界に旅立つか、それとも須田君だけ、墓標になるか」
「どれもやめてほしいんで話を聞いてくださいお願いします……」
麒麟は怒っていた。
でも、怒られる筋合いなんてどこにもないんだけどなあ……
「そうだ、この嘘の情報を流してるたぬきを探してるんだけど、りんさんも協力してくれない?」
「たぬき? そんな下等なものの為に麒麟の力を使えと、そう仰るのですか」
「え、いや、まあ」
「はあ、仕方ありませんね。それでは早速やりましょう」
「え、やってくれるの?」
「ほかならぬ須田君の頼みだから、仕方なくですけどね」
とか言いながら、麒麟は目を閉じる。
そして何か呪文のようなものを唱え始める。
その献身的な姿に俺は、涙する。
ようやく、ようやく俺の為に力になってくれる人がいた。
ああ、もうこの子の愛を受け入れちゃおうかしら。
「あ、いましたよ」
「ど、どこに?」
「それが……たぬきは既に捕獲されています」
「え、誰が?」
「隣の部屋の方、ですね。妖狐ですか?」
「……なんだと?」
そんなはずはない。
だって、妖子さんがたぬきを捕まえて来いって、そういったんだから。
いや、あの人の事だから、勝手に捕まえて好き放題してる可能性もある。
「……隣の部屋、行くぞ」
「いいでしょう。管理人として許可します」
というわけで、突撃隣の妖子さん宅。
何度もドアをノックしたが、もちろんでないので強硬手段。
麒麟の持つ合鍵でロックを解除し、侵入することに。
もちろんいけないこととわかってはいるが、何度も玄関をぶち壊されてきたんだし、これくらい構わんだろう。
「妖子さん、入りますよー」
玄関の電気はついていた。
そして、奥から何か声が聞こえる。
「このたぬきめ、あんたなんかそのまま大学の敷地に放り出してやる!」
「すみませんでした!お願いですから勘弁を!」
「ダメよ、狐をからかったこと、後悔させてやる!」
何か揉めている? いや、妖子さんが怒ってるのか。
廊下を進み、俺はそのまま彼女の部屋に入る。
すると。
「あの、妖子さ……わっ!」
「きゃー!」
一瞬だったが、見てしまった。
女の子が。
裸で磔にされていた……
「あら、なにやってるのよゴミ」
「え、いや、ここにたぬきがいるという情報を得て……」
「さすがね。そう、このすっぽんぽんの淫乱がたぬきよ。このまま人通りの多い場所に放り捨ててやろうと思ってたところ」
「え、たぬきって女の子? あ、いや、何も見てません……」
チラッとしか見えなかったが随分かわいい子に見えたけど。
タヌキ顔、なんていうけどそんな感じ。たれ目の可愛い女の子。
そしておっぱいが……そしてすごいものが……見ちゃった、全部見ちゃったよ。
「ねえたぬき、このゴミの部屋に素っ裸で監禁してあげるのはどう? あなたなんておもちゃにされて明日にはスーパービッチたぬきになってるわよ」
「やめてー! 私この人きらいー! なんかうさんくさいー!」
「……」
胡散臭いとはなんだよ!
「そう、なら反省する? 二度と私に悪戯しないと、狐に誓える?」
「は、はい! もう、絶対に何もしません!」
「だそうよ、ゴミ。残念だったわね」
「べ、別に期待なんかしてないよ!」
ちょっと期待してましたすみません。
「じゃあ解放するわ。さっさと山に帰りなさい」
「帰ります! 私、もう悪いことはこりごりです!」
目を瞑ったまま、部屋でボーンと爆発音のような音を聞く。
するとすぐに妖子さんが、
「もう目をあけてもいいわよ」
と。
恐る恐る目をあけると、そこには妖子さんと。
なぜか怒っている麒麟がいた。
「あ、あれ?」
「須田君、あの子の裸、見ましたね?」
「み、見てない! 俺は断じて見てないぞ!」
「いいえ見ました。神に嘘をつくのですね。わかりました、神罰を下します。一緒に地獄におちろー!」
「神様が地獄とか言うな―!」
結局この後、麒麟に散々ひどい目にあわされて。
無事、俺はボロボロになりましたとさ。
しかも今回は報酬ゼロ。
たぬきを捕まえようとして、得たものはなし。
わかったことは、おのれの人望のなさ。
……今までで一番辛い案件だったかもしれない。
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