第14話 とりあえず知り合ったら歓迎会
「妖子さーん、つららさんが目覚ましたぞー」
しかし何も返事はない。
寝てるのか?いやしかし、勝手に話を進めるわけにもいかないし、正直俺一人であの雪女と二人っきりで話をするのも怖いし。
「おーい、妖子さーん寝てるんですかー」
何度か彼女を呼んだ。
すると、少ししてからガタガタと中で音が。
「なによこんな時間に」
扉が開くと、中から妖子さんが死ぬほど悪い目つきで出てきた。
「い、いや、あの雪女が目を覚ましたから」
「だから何よ。私、今忙しいの」
「な、何か仕事でもしてたのか?」
「戦争よ。あなたみたいな子供には無縁のね」
なんとも物騒な言葉が彼女から。
戦争って……一体中で何をやってるんだ?
「ま、まさか妖怪同士の争いが起こっててその指揮をとってたとか」
「いいえ、MMOでランカー相手にバトってたとこよ」
「ゲームかい!」
そんなことならさっさと来いと大声で怒鳴ると、「世界中のゲーマーに謝って死ね」と罵倒された。
しかしようやく観念したのか、めんどくさそうに出てきた彼女は一緒に俺の部屋へ。
「あら、ようやく目覚めたのね雪女」
「うちの名前はつららや。ちゃんと呼ばんかい狐」
「私には妖子という可憐でチャーミングな名前があるの。ああ、頭の中まで氷だから覚えられない?残念ねあなたって」
「雪女をバカにするっちゅうなら出るとこ出るで」
「怪異の王たる私とやるというのなら消すわよ」
「待て待て!喧嘩はよくない、うん、よくないぞ」
バッチバチににらみ合う二人の間に入って仲裁……しようとしたら俺の半分が凍って半分が燃えた。
「あっつ!冷たっ!」
「あら、氷と炎をまとうなんてまるでヒーロー学校に通うあの生徒みたいね」
「そんないいもんじゃねえよ!ていうか、話するんだろ?だったら喧嘩はやめろ」
「わかったわよ。つらら、休戦よ」
「しゃーないわね。ほな、話させてもらおか」
二人とも俺に謝る素振りすらなく、火を消しながら氷を払う俺なんて無視して、床に座る。
「さて、一体どういう悩みから人間一人殺そうとしたのかを聞かせてもらうわ」
「……うち、好きな人がおってん。せやけどこの前、うちが半妖やってバレてしもて……そんでフラれてもーたんや」
「なるほど、だから人間になろうと思って、ガセネタを信じてゴミを山に捨てようと」
「誰がゴミだ!」
「あら、なにもあなたのこととは言ってないけど?ああ、ようやくゴミだという自覚が芽生えたのね、ゴミ」
「ぐぬぬっ……」
ゲームの邪魔をしたことを根に持っているのか、いつにも増して妖子さんのあたりがきつい。
いや、俺は悪くないだろ?
「まあいいわ。それで、あなたの悩みっていうのはそのフラれたカレとの復縁?」
「それはもうええねん。あんな男知らん。せやけど、この先またおんなじことになるんは嫌やし、どうしたらええかわからへんねん」
雪女の悩み。
それは半妖であるからという理由で、好きな人が出来てもうまくいかないという悩み。
……彼女たちも、自分の生まれ持った体質というか、異能に苦しめられている。
どうも他人事には思えないな。
「なるほど。あなたは半妖である自分が嫌いなのね」
「もちろんや。なんでこんな半端な、しかもこんな平和な国やとなんの役にも立たへん力を持って生まれてしもたんや。ほんで、うちは何も悪いことしてへんのになんで気味悪がられなあかんの?」
雪女の愚痴は、なんか自分のことを言われているようで、かなり心に刺さる。
うんうん、わかるわかる。
「あなたの言いたいことはわかるわ。でも、異能を授かった上に冴えない見た目で生まれてきたこのゴミ童貞を見てみなさいよ。こんなのと比べたら自分がどれだけマシか、わかるってものよ」
……俺のことだよな。
「それに、こんなイマイチなくせにあなたみたいなそれなりにイケてる女子が本気で自分を抱かせてくれるとか勘違いするんだから相当頭おかしいでしょ?そう思うとあなたはまともよ。自信持ちなさい」
「せ、せやな!うち、なんか自信がわいてきた!」
「ほら、心の傷が癒えてきたわ」
「俺が傷ついたわ!」
いやいやそこまでか?
たしかにそこまでイケメンとは思っとらんけど、細身だし髪の毛もセットしてるしコミュ力ある方だと思うし、そんなにクソ味噌に言われないとダメ?
「あら、ゴミ。あなたのおかげで悩みが解決したから一応褒めてつかわすわ」
「そのせいで俺の悩み事が増えたよ!ひどすぎないか毎回毎回」
「いいじゃないあなたみたいな社会のクズでも誰かの役に立てたと思ったら光栄でしょ」
「ゴミとかクズとかやめろ!」
「じゃあゴミクズ」
「まとめんな!」
ゲームの邪魔したことってそんなに罪なのか?
「まあそういうわけで、お悩み相談終了よ。飲みに出るわ」
「毎晩毎晩飲みに行ってたら体がもたないよ……」
「あら、せっかくの出会いには乾杯しないと。つららも行くでしょ?」
「え、かまへんの?うち、騒ぐん大好きやから付き合うでー」
「……」
一つ仕事を終えるたびに飲みに行くシステムが確立されつつある。
しかもどんどん半妖の知り合いが増えていっている。
悩み相談をしてる以上それは仕方ないとして、全員と仲良くなる必要はあるのか?
こいつ、妖怪大戦争でも始めるつもりじゃないだろうな。
そんな無駄な心配が本当に無駄だと思わせるくらいに平和ボケしてそうな狐は、行きたい店があるから付き合えと言ってきた。
「お前が行きたい店ってどんなとこだ?高級店はやめろよ」
「けちくさいわよいちいち。それに心配しなくても予算の範囲内でやるわ」
……いやこの飲み会の予算いくらなんだよ。
聞いてねえぞそんな話。
それに、もしこいつの言う予算とやらが仕事の報酬である十万円を指すのであればとんでもない話だ。
毎日毎日そんな大金を使い切るような金銭感覚を養って社会に出てしまったら二度と普通の生活など送れるはずもない。
……まあ、今もすでに普通とはかけ離れた生活を送っているわけだが。
将来を危惧しながら狐についていくと、向かった先は細い路地裏。
なんか真っ暗だけど大丈夫かな?
「こんなところに店があるのか?」
「ええ。そこの壁、押してみなさい」
「壁? ……うわっ」
そこには確かにコンクリートの壁が見える。
しかし手で触ると、するりとその手が中にすり抜ける。
「え、これなんなの?」
「ここ、隠れ家的な飲み屋があるんだけど、妖力がないと中に入れないの。いわば妖怪の溜まり場ね」
「……そんなもんがあるなんて、まさかだな」
ていうか妖怪の溜まり場ってなんだよ。
それ、やばい場所じゃねえか?
「さあいくわよ。今夜はフィーバーよ」
「おー!」
意気揚々と壁の中に入っていく妖狐と雪女。
慌てて二人についていき壁の向こう側へ。
するとそこには。
「お、いらっしゃい。半妖とは珍しいお客さんだね」
バーがあった。
カウンターから、バーテンダー姿の綺麗な女性が俺たちに声をかける。
「すげえ……ほんとに店があるんだ」
「さあ飲むわよ。ここなら耳も尻尾も隠す必要ないから楽なのよねー」
「よっしゃ、ビールやビールや」
今日は雪女の歓迎会だそうで。
早速運ばれてきたビールをうまそうに飲みながら顔を赤くする美女二人。
そんな彼女たちの介抱がどうせ待っているのだろうと、飲み会が始まった瞬間から後始末のことを考えてしまい、ため息をついた。
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