第52話 抜けなくなった指輪

 いやまあ、いうて結婚指輪だから、別に抜けなくてもいいっちゃいいんですけどね。


 あてくし先日ドラマを観ていたんですよ。なんかさ、『5分後に意外な結末』? だっけな、なんか朝読用の短編集あるじゃないですか、それのドラマ版かな? みたいなやつがね、深夜にやってまして、気になったので初回だけ観たんです。

 そしたらねえ、唯一おもろいなこれ、って思ったストーリーのネタに、呪いのダイヤみたいなんが出てきたんですよ。ブルーダイヤですね。

 それ観てて、そういやわたしの結婚指輪にもブルーダイヤ埋め込んであるな、っていうのを思い出したのです。

 指輪買うときにさ、ブルーダイヤってのがあって、呪いのダイヤって言われてるんですよ〜ってな説明をお姉さんから受けたときに、うちら夫婦揃って変なの好きなもんですからさ、その説明で逆に楽しくなっちゃって喜び勇んで二人とも指輪の内側にそのブルーダイヤを埋め込んでもらっていたのです。

 思い出すと気になるもんで、そういやどんなんだったっけなってなるじゃないですか。いっちょ久々に確認してみっか、と思って左手の薬指に手をかけたんですが、いやもうびっくりしましたね。外れねえの、指輪が。

 引っ張ったらさ! 指の! 肉がさ! むにん……、ってなんのよ!! そっから本当にまったく進みやしねえの!! 関節まで辿り着かないの!! 指輪が!!

 いやもうびっくりしたね。焦ったよね。脳が咄嗟に、あ、これはあれかな、ちょっとむくんでるのかな、って思い込もうとしたもんね。すぐには現実を受け止めきれなかったですよ。え、嘘でしょ、わたしの指に限ってそんな、太るとかそんな、いやいやいやいやないないないない、知らんもんそんな変化。そんなばかな。とか思いまして。んでわたしはまずそっから開き直ろうとしました。

 まあね、いうて結婚指輪ですよ。外れなくてもいいの。ブルーダイヤなんてそんな、見えないなら見えないで別にいいのよ。離婚する予定も今のところないし、気に入ってるし、抜けないっちゅうことは、知らぬ間に紛失することもないしね。

 でもさちょっと待って。外さなくちゃいけなくなったときどうすんの? たとえばレントゲン撮るので外してくださーいってなったら? 交通事故とかなって車に轢かれて緊急手術なって指輪外れないどないしよってなったりしたらどうすんの? あれか、たまに聞く指輪切断か、ええ〜ちょっと待ってそれは困る。この指輪まじで高かった。なんならわたしが身につけてるものの中でいっちゃん高級品なのはこの指輪やぞ。いや本当にそうなんですよ。材質変更とかサイズ特注とかいろいろオプションオプションでほんまにお高いんすよこの指輪。払ったのわたしじゃないけれども。しかもこれめっちゃ幅が太いから多分ちょっとやそっとじゃ切断できねえぞ、えっ、待ってそしたら指のほうを切断!? そんなことある!? それは困るやんえっえっ……


 なあんていうしょうもない妄想に取り憑かれまして。

 外れないとわかったら意地でも外したくなるのが人の性ですよ。

 もうね、とにかく引っ張る引っ張る。全然抜けない。どこに力を入れてみてもまったく変わらない。肉がつっかえちゃって関節まで辿り着かない。石鹸で滑るんじゃね! って思ってハンドソープで頑張ってみたけど不思議なことに外れない。おおおまじか……。

 わたしは軽く絶望しましたね。まじで外れないじゃん。頑張ったから地味に指が痛いよ。よく見たら心なしか薬指の付け根だけがちょっとほっそりして見えるよ。なにこれ一生外れなかったらどうしよう、いや別に外れなくてもいいっちゃいいんだけど、いやでも外れないとか抜けないとかそんなことってある? なんだこれが呪いのダイヤの代償か? とかひたすら悶々しました。


 本当にねえ、外れないとわかったらもうそっから気になる気になる。旦那にも「外れなくなっちった」ってやって見せたらめっちゃばかにして笑われましたよ。指ってどうやって痩せんねん。

 まあ結果からすると、こないだ外れましたけどね。

 やっと抜けました。ハンドソープで手ぇ洗ってるときに、なんの気なしにもっかいふんぬ! ってやってみたらすこーん! って抜けました。びっくりした。やたー!!

 やっとこさ観察してみた指輪の内側には、ちゃんとブルーダイヤのちっせえのが鎮座しておりました。内側なんて誰も触らんのに若干キズがついていて不思議だなあとか思ったり。


 んでさ。

 勘のいい人ならもうお気づきでしょうが、そうなんすよ。

 今度は指に嵌まらねえの。笑

 関節から先に進みやしねえ! ちくしょうと思いつつ、仕方ないのでもっかい泡だらけの手で逆方向に頑張りましたよ。何回手ぇ洗うねん。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る