第32話 崖から滑り落ちるとかほんともうどうしてそうなる

 金曜日の夜に、旦那とふたりで茶を啜りながら、明日どうする、という話をしていました。

 土曜日だし、どこかに出かけるか。いや寒いし出たくない。でも子どもらがちょっと運動不足気味だから、どこか広いところで走らせてやりたい。

 そんなやり取りをしていまして、寒いから出たくないという本音と、子どもらの体力を心配する気持ちの折り合いがつかなくて、なあなあな感じで日付けが変わる頃にお布団に入りました。

 そしたら寝ついて1時間くらいで、夜中に地震警報アラームで叩き起こされまして。

 暗いなか目ぇしぱしぱさせながら明るい画面を見て

「日向灘……? ひなたなだってなんだっけ、えっ、どこ、ここ? ここが揺れんの、あっ、揺れるね!? あっ!! 揺れるやん!! 普通に揺れるやん!! わーお!!」

とちょっぴり驚き、これは横揺れだなあと冷静に観察し、揺れがおさまってからテレビをつけて情報を確認し……夜はやめておくれよう……とがっくりしながらもう一度寝ました。


 朝になると誰も起こしてくれなくて、珍しく10時に起きました。

 そしたらまあ、当たり前だけどみんな先に起きていて、かといって家のことをしてくれるようなやつはひとりもおらず、起きてすぐ台所を片づけ洗濯機を回し子どもらの上履きを洗い掃除をし。

 その間「手伝おうか」のひと言は誰からもなく。みんな似たような体制で転がってゲームしておるではないですか。上の子くんに至っては途中から「下の子くんにYou Tube取られた」と言ってめそめそ泣いている始末。知らんがな。

 ちょうど昼ごはんをつくるのが嫌だったので、上の子くんの機嫌を晴らすためにコンビニにお弁当を調達しに行こうと誘いましてふたりでコンビニへ。「下の子くんにはおやつ買うたらんから!」とぷんすかしているので、おまえ手ぶらで来といてなに言ってんだ、払うの母やん。そもそもおまえにもおやつ買うたるなんて言ってねえ。などと思いながら、うまい棒ひとつ買ってやりました。


 そんで昼になりまして、大慌てでお出かけの準備をして、ちょっと山のなかにある大きな公園に行くことにしました。

 広い公園でして、あっちからこっちまでおよそ100メートルくらいあります。知らない場所ではないので、アスレチックや遊具で遊べばよろしいと思って連れてきたんですよ。

 んで、入り口から遠く離れたところまで歩いてからわたしはふと気づきました。

 車のなかにスマホ忘れてもうた。

「ちょっと車にスマホ忘れたから取ってくるわぁ」

と旦那に声をかけると、旦那は自分のスマホ触りながら生返事。下の子くんに自販機でジュースを買ってやり、その間に上の子くんが居なくなってるので旦那に聞いてみたらば、そっちで遊んでる、とな。いやそこには居ないけど。

 下の子くんを旦那の隣に座らせてジュースを与えてから、わたしはおよそ100メートルを歩いて戻りました。

 上の子くんは旦那が指したところにはおらず、遥か遠くのアスレチックで遊んでいたので、上の子くんにも声をかけてから車まで戻りました。体力の低下が著しいのでふうふうひいひい言いながら車まで戻り、ふうふうひいひい言いながら旦那のところまで辿り着くと、今度は下の子くんもいない。

「下の子くんは?」

「そこで遊んでる」

「居ないから聞いてんだよ」

「あれっ?」

なーんてやり取りをして、子どもらを探すことになりました。

 が。

 いないんっすよね。あっち探してもこっち探してもいないんですよ。上の子くんも下の子くんも見つからない。

 っええ〜、おっかしいな、どっかですれ違ったかしら、とちょっと心配になってきまして、上の子くんが携帯電話を持っているので電話してみました。

「あっ、上の子くん? 今どこ?」

『あっ母さん! 実はちょっと出来心で覗き込んだら崖から落ちちゃって』

「っはあっ!!?」


 いやもう大慌てですわ。上の子くんったら、まともな情報も言わず通話も切らずに携帯をかばんの中に放り込んだらしくって、そこからどんだけ呼びかけても気づきやしねえ。

 かばんの中のガサガサいう音と、ほら下の子くん手ぇ貸して、っていう声と、こわいよう、という下の子くんの声が聞こえてきます。

 崖ってなんだ、崖なんてどこにあんだよ、と走って探し回り、もしやここかあ!! と思ったところを覗き込んだらば、大きな岩場からよじ登ってくるふたりをようやく発見しました。

 まさかの岩場!!

 本当に大慌てで駆け寄りまして、泥だらけだったけどなぜか無傷だったので取り敢えずひと安心しました。


 ごめんなさい、としおらしくしているふたり。やっぱりそれなりに怖かったんでしょうね。旦那が「なにやってんだよ!」と怒ろうとしていたんですが、わたしとしては「おめえがなんも見てねえからだろ!!」という気持ちと、「いやそもそもわたしがスマホを忘れなければ……この人が面倒見れるわけないんだった」という気持ちになりまして、しょぼくれてるふたりに怒るのも違うかと思ったので「冒険できて良かったね」と言っておきました。無傷だったのでまあ良し。

 そこからはしばらく素直にアスレチックで遊んでいたんですが、学ばない系男子の上の子くんがまたしても全力疾走で今度はガチの山のなかに入って行こうとするわけですよ!

 現役小学生の足によぼよぼのおばはんが追いつけるわけがなく、またしてもふうふうひいひい言いながら追いかける羽目になりました。


 もう本当に疲れた。多分わたしが一番疲れた。疲労困憊で車に乗り込み、買い物して帰ろうと思ったら店に着いてもみんな疲れて車から降りやしねえ。

 仕方がないのでひとりで買い物を済ませ、帰宅してひとりでごはんを作り、ひとりで風呂の用意をして腹が立ったのでひとりで一番風呂に入ってやりました。


 よくふたり一緒に落ちたなあ、と思っていたんですが、夜になってよくよく話を聞くと、まず始めに上の子くんがうっかり滑り落ちて、それを見てびっくりした下の子くんがなぜか追いかけてあとから滑り落ちたらしいんですよ。なんでだよ!!

 母を探せよ! と思ったんですけど、兄ちゃんと離れるのが弟的には怖かったんでしょうね。まじ無傷で良かったです。

 そしてバラバラに行方不明じゃなくて良かった。下手したら最悪ひとりでふたりぶんの捜索に当たらねばならんところでした。

 そして来るぞ来るぞと思っていた筋肉痛が来ない。これはあれですか、数日して忘れた頃にやってくるやつですか。やだあ。


 っていう、非常に疲れる週末を送っております。

 みなさんも崖にはお気をつけくださいね。まじで肝が冷えました。笑

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