5
〜数日後〜
テスト前最後の休日。
今日はちかの家で最後の追い込みをする。
と言ってもちかが作った模擬テストをして苦手な箇所を炙り出し、分からない箇所があればちかに質問するって感じだけど。
家の玄関を出てちかの家へ向かう。
ちかの家は私の最寄り駅から電車で20分くらいのところにある。
通学では電車は使わないので、少しソワソワしながら電車に乗る。
すると同じ車両の出入り口付近にギターを背負って外を眺めている男の子がいた。
あの人はどんな音楽をするのだろうと考え込んでいると、じっと見つめていたせいか目が合ってしまった。
少し気まずくなりお辞儀だけして視線を逸らした。
目的の駅に到着したので席から立ち上がり電車を降りる。
改札を抜けると先程のギターを背負った男の子がウロウロあたりを見回していた。
「あの?大丈夫ですか?」
心配そうな顔をした同じくらいの男の子が振り返る。
「あぁすいません。どっちに行ったらいいのかわからなくて」
そう言うと男の子は携帯の画面に表示される地図を見せてくれた。
「……。えーっと、降りる駅間違えてますよ」
「……?えっ……」
男の子はキョトンとした顔をし、駅の方を向き自分が降りた駅名を確認した。
「あぁまたやった……」
どうやら何度かやった事があるらしい男の子は、慌てて携帯で時間を確認する。
「時間大丈夫ですか?」
「なんとか」
そう言うと男の子はどこかへ電話をかけた。
邪魔しちゃ悪いと思いお辞儀して去ろうとすると、電話口を手で覆い「すいません。ありがとうございます」とお礼を言われた。
その時ふとどこかで嗅いだ事がある香水の香りがした。
私は再度お辞儀してちかの家へと向かった。
テスト最終日
キーンコーンカーンコーン
「はい。そこまで。後ろから回答用紙回してくれ」
先生の合図で回答用紙が後ろから前に回されていく。
「やっと終わった……」
私はテスト用紙を前の人に渡すと机に突っ伏した。
「お疲れ、かな」
ちかが声をかけに来たので、身体を起こすとちかに向き直りお辞儀をした。
「ちか様今回もありがとうございました」
「は〜い。あっそうだ。凄くいい曲あったんだけどかな知ってる?」
そう言ってちかは携帯で音楽を再生し始めた。
「えっ!凄い!男性でここまで出せるの!!」
「いやほんとそう思う。しかも歌ってる人今人気の俳優さんみたいなんだよね」
「へぇ〜そうなんだぁ〜ちなみに曲は誰が作ってるの?」
「えーっとね」
そう言ってちかは調べ始めた。
「あったあった。“紺碧”って書いてあるよ」
「えっ?うそっ?本当に紺碧?」
私の知っている紺碧の曲とは少し曲調が違う気がするけど……。
ちかが携帯を私の前に突き出して名前を確認させる。
「知ってるの?」
「もちろん。でも紺碧の曲もう1年以上上がってなかったのに……なんで……」
「あぁなんかね。去年行われたコンテスト?で優勝したらしいよ。それでこのドラマの主題歌がその特典みたいだよ」
そう言ってちかはそのコンテストのSNSを開いて見せてくれた。
「そうかぁ……。曲作り作り辞めたわけじゃなかったんだぁ。紺碧が私の憧れだから」
紺碧がまだ音楽を作っていたことの喜びと安堵感で胸を撫でおろす。
「あぁそう言えばそんなこと出会ってすぐの頃言ってた気がする。でもかな恋愛曲じゃなくて、ザ青春みたいな曲を作ってる気がするけど?」
「あはは……」
図星を突かれて苦笑いをする。
「それは置いといて、さっきの曲もう1回流して」
ちかに懇願すると文句を言うことなくもう一度先程の動画を流してくれる。
今度は曲を集中して聴く。
知ってる紺碧の曲調とは少し違うけどやっぱりいい曲だ。これからまた曲あげるようになるかなぁ。
「よしっ。私も曲作り頑張るよ」
そう決意した。
「あっ。今年もこのコンテスト開催されるみたいだよ。かなも参加してみたら?」
「そうなの?」
「うん。今年の開催情報は……」
ちかが携帯で情報を確認してくれる。
「あっもう詳細発表してるみたい」
「えっ?そうなの?」
そう言うとちかが詳細を教えてくれた。
第1審査:”春夏秋冬”をイメージした曲を作ること。4曲まで登録可能。1曲の登録も可。
一般投票と審査員投票で30名まで絞る。※重複は不可
期間:7/20〜8/20
第2審査:後日詳細発表
期間:9/2〜9/30
最終審査:後日詳細発表
期間:10/2〜10/31
※審査期間にインタビューなどにご協力いただく場合もございます。顔出し並びに本名を出すことが難しい場合はあらかじめその旨登録願います。
※審査の過程で機密事項等発生しますので、必ず同意書をお読み頂きご参加願います。
審査員賞:ドラマ主題歌+賞金100万円 1名
副賞:賞金50万円 1名
審査員特別賞:賞金10万円 3名
「ちょうど夏休みからエントリーできる感じなんだね」
「そうみたいだね。かなも参加してみたら?」
「そうだね。いろんな人の音楽が聴けるのかぁ。楽しみだなぁ」
「本当に音楽バカだよね。普通ライバルとかって思うんじゃないの?」
「……ライバル?そんなこと思わないよ。人によって全然違うから楽しいんだよ。あぁ楽しみだなぁ〜」
「まぁテストもちょうど終わったしちょうどいいんじゃない」
早速ノートを取り出して、テーマを書き写す。
春夏秋冬。季節っぽいテーマの曲とかは結構多い。
春:出逢い・別れ・桜・新しい生活
夏:海・旅行・お盆・体育祭・台風・夏休み・入道雲
秋:ハロウィン・寂しさ・文化祭・食欲・読書・運動・焼き芋
冬:受験・風邪・クリスマス・お正月・別れ
うーんあんまり統一性ないなぁ〜。
季節毎に思いつくものを書き出してみたが、季節を通して関連性のあるものが見つからない。
せっかくだから、春〜冬でストーリを繋げてみようと思ったのにな。
学校も行事以外は季節ごとの変化ってあまりないもんなぁ。
うーん部活動だったらあるかな?
春:大会・試合へ向けて猛練習 ※3年なら最後の試合
夏:勝ち負けが確定・引退
秋:次の世代に託す・引退してない人は来年に向けて練習
冬:練習・部活によっては基礎練
でも部活によって試合の時期とかちょっと違かったりするから……。
自分が部活に入ってないから、すごいざっくりしかわからないな。
季節で統一したテーマってもしかして激ムズなのでは……。
どう言う曲調にすべきか、テーマを繋げるかすごく悩ましいな。
でもここに時間割いちゃうと歌詞と曲を作る方に時間割けなくなっちゃうから、ある程度のスケジュールを作らないと間に合わなくなりそう……。
8/20までだから、遅くとも1週間前には曲を登録したい。
8月には曲が完成してる状態で最終調整くらいにしたいから……。
今月中に4曲……。
……全然現実的じゃないんだけど。
このコンテスト中途半端な気持ちじゃ応募すらできないのでは……。
うーんでもまだ始まったばかりだ、弱音を吐いてる場合じゃない。
自分に喝を入れテーマを再考する。
家に帰ったら春夏秋冬の曲を聴き比べてみようと思いながら、ひたすら思いついた単語をノートへ綴る。
「かな今日向陽先輩と一緒に帰る予定でもあるの?」
没頭していた私は急に声を掛けられて声が裏返る。
「へっ?」
ちかの目線の先を追うと向陽が廊下から教室内を覗いていた。
向陽と目が合うと、ちょっと来てと手招きされた。
私は席から立ち上がるとコウくんの元まで向かう。
「コウくんどうしたの?」
「今日からしばらく帰りも一緒に帰っていいか」
「えっ?でもコウくん部活は?」
「あぁそれは大丈夫。そもそももう引退しててちょっと後輩の指導してただけだから」
「そうなんだ。でも急にどうしたの?」
向陽はちょっと罰が悪そうに視線を逸らした。
「いやちょっとな……奏には迷惑かけないようにするからさ」
「じゃあ荷物とってくるから待ってて」
「あぁ」
そう言って教室に戻りちかに軽く事情を説明して一緒に下校することにした。
「コウくんテストどうだった?」
「あぁぼちぼちかなぁ」
「そっかそっかぁ〜。そう言えばコウくんってどこの大学行く予定なの?」
「今のところW大の理工学部かな?」
「そっかそっかぁ〜大学入ったら一人暮らしとかするの?」
「いや今のところはその予定ないかなぁ。家から通えるし」
「ん?どうかした?」
周囲をチラチラと気にしながら歩く向陽の様子が気になった。
「いやなんでもないよ。それよりどこか寄りたいところあったら言えよ」
「あっ!じゃあテストのストレス発散しに行っていい?」
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