第48話 深い森
魔人達とのお茶会も終わり、舞は城を出て、ブラックと一緒に街へ向かっていた。
楽しい時間はあっという間に終わってしまったが、ブラックがカクの家まで送ってくれるというのだ。
帰る前に魔人の国について少しだけ案内してくれたのだ。
ブラックの城を中心にして街が存在しており、闘技場やホールのような大きな建物もあった。
少し離れたところには作物を育てている農園や果樹園などもあり、人間の国とそれほど変わる事はなかったのだ。
しかし、街の外に出て遠くを見渡すと、岩山や草原がほとんどなのに、一つだけ不思議な気配を感じる森があったのだ。
「あの森は何かしら?
ちょっと気になる気配を感じます。
気のせいかな?」
ブラックに聞いてみると、少し驚いた表情で教えてくれたのだ。
「人間なのに感が鋭いですね。
あの森には魔獣が住みついているんですよ。
ああ、もちろんこっちの世界に私達が連れてきた魔獣なのですがね。
ただ、あの森には魔獣達以外の強い気配というかエネルギーを感じるのですよ。
と言っても、この500年別の生物が現れる事は無かったのですが。
私も何回か行ってみたのですが、見慣れた魔獣しか見つかりませんでした。
ただそれは敵意を感じる気配ではないので、放置していますがね。
言い方を変えると、生きている森とでもいうのでしょうか。」
なるほど。
確かに不思議な感じはするが、敵意ではないのは何となくわかるのだ。
「この世界は私とハナで見つけたのですが、まだ移住する前によく二人で遊びにきていたのですよ。
その頃から、この森は存在していたのです。
まだ魔獣もいなかったので、よくハナが一人でも来ていたようですが。
何をしてたかは、よくわかりませんでしたが。
・・・行ってみますか?」
「ええ、行ってみたいです。」
私がそう言うと、ブラックは私の手を掴み、一瞬でその生きている森の前まで移動したのである。
そこに着くと先ほど以上に、大きなエネルギーを感じたのだ。
やはりこの気配は不思議ではあるが、敵意などは無いようで、逆に何か惹きつけられるものがあったのだ。
魔獣達の棲家になっているのも、理由があるのかもしれない。
森の中には小さな小道が一本だけ通っており、私は引き寄せられるように中へと進んでいったのだ。
そう言えば、この森には自分の世界と同じような植物は存在するのだが、小動物や昆虫のような生き物を見かけることがなかったのだ。
それに、ブラックから魔獣の棲家と言われていたが、未だ魔獣1匹とも遭遇する事もなかった。
「魔獣は賢いから、自分より強いものがいると隠れるのだよ。
もちろん、呼べば来る魔獣もいますよ。」
ああ、ブラックを怖がって来ないってことなのね。
なるほどね。
ブラックは思念で呼び寄せたのか、すぐに綺麗なユニコーンのような魔獣が現れたのだ。
よく見ると、頭のところに宝石のような石が光っているのだ。
「あの宝石のような石、攻めてきた魔獣にもついていました。
あれは?」
ブラックに尋ねると、そのユニコーンのような魔獣の背中を触りながら答えた。
「ああ、あれはその所有者がいると言う証拠ですよ。
この子は私のお気に入りですがね。
それに、その石を通して自分の魔力を送る事で、魔獣自身を強くすることも出来るのですよ。」
なるほど。
私の世界で言うと、首輪みたいなものなのだが、パワーアップさせる事ができるって感じかな。
攻撃してきた魔獣もそうだったのかもしれない。
あの魔人に操られていただけなのに、闇の薬を使い、可哀想なことをしたと思ったのだ。
私はそのまま森の奥深くに進むと、気配の中心とも言えるものを見つけたのだ。
そこは開けた空間になっており、中心に大きな木が立っていたのだ。
幹は直径だけでも何メールもあり、濃い緑色の葉が沢山茂って、枝は周辺の木々と一体化しているように見えたのだ。
そしてその下には色々な草花が咲き乱れていて、寝心地が良さそうな芝生が広がっていたのだ。
そこまで歩いて来た小道は、高い草木が多く茂っており光も殆ど入らないような状態だったのに、そこは別の空間のように感じたのだ。
きっとハナさんはここに来ていたんだ。
すぐにそう思えるくらい、そこは不思議でとても素敵な場所だったのだ。
「この場所は昔はこんな感じでは無かったのですよ。
もっとこの木も小さく、枯れそうな状態だったのです。
ハナが可哀想と言って、それでよく通って草木の世話をしていたと思いますよ。」
ここまで立派な木にさせるなんて、ほんとハナさんはすごい。
そう思ったとき、何処からか呼びかける声が聞こえたのだ。
「今、聞こえました?」
「ええ。
どうも、この木が私達に呼びかけているようですね。
この木は昔はただの木だったはずですが、どうも魔力を吸収してますね。
魔獣の棲家になってから、影響があったのかもしれません。」
ブラックがそう話していた時、大きな音を立てて、その大木の横の木々や枝が動き出し、トンネルを作り出したのである。
私達が驚いて顔を見合わせていると、そのトンネルから同じように呼びかけてきて、中に入るように伝えて来たのだ。
そこには恐ろしい感じは全くなく、私達は中に入ってみることにしたのだ。
私としては、ブラックがいるので、不安はひとかけらもなかったのだ。
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