第47話 地下牢

 魔人の城の地下にある牢では、沢山の本に囲まれながら収監されている者がいた。

 人間の国で捕らえられたプランツであった。

 本を読みながら、今までのことを振り返っていたのだ。


 私はここ数十年、確かに魔人として復活しつつある事は、少しずつ感じていたことなのだ。

 しかし、異世界への洞窟の封印が解けなければ、ここまでやろうと思っただろうか。

 この500年人間でいることが居心地が悪いことばかりでは無かったはずなのだ。


 だが、封印が解かれた事で、昔の私の呪いに自分自身がかかってしまったのかもしれない。

 人間への憎悪を抑える事が出来なくなっていたのだ。


 そして何の因果かこんな時に、昔と同じような不思議な薬を作る娘が現れたのだ。

 今回は消滅という形では無いが、結局は娘の作る薬で負けたのである。

 だがあの時、シンブという薬師であった事を思い出させてもくれたのも、あの娘なのだ。

 シンブの身体に長い間いたためか、人間の薬師としての立場が魔人の魂の中にもきざまれていたのかもしれない。

 だからこそ、薬とは何かと娘に言われた時、心に響いたのだ。


 ・・・だが、今更後悔してもどうしようも無い。

 ブラック様に反抗した報いは受けなくてはいけないのだ。

 それに、ストームやグラウン達を巻き込んだ事。

 私が消滅して詫びる代わりに、彼らに寛大な裁きをお願いしなくてはと思ったのだ。

 

 ユークレイスの尋問は正直きつかったのだ。

 しっかりと質問に答えていても、心を覗かれるのだ。

 拷問されるわけでは無いのだが、精神に働きかける魔法のため、気持ちも休む事は出来ないのだ。

 自分の心を無理矢理覗かれる気持ちは、本当に嫌なものであるのだ。

 そして、ストーム達の安否も知らされないまま尋問の日々を過ごすのは心が折れそうであった。


 その時、あの娘に無理矢理渡された薬が頭に浮かんだのだ。

 この薬は取り上げられる事は無く、私も捨てずにそのまま放置していたのだが。

 そうだ、これを飲めば楽になれるかも。

 そう思って飲んでみたのだ。

 しかし、その薬は私の予想と全く違う結果をもたらしたのだ。


 自分を消滅に導く薬と思って飲んだのだが、すぐにとても気分が良くなって、今まで不安に感じてきた事などが一切消え去り、生きる意欲さえ出てきたのだ。

 そして、その後すぐにストームとグラウンにも会うことが出来たのだ。

 2人も同じような尋問、拘束を受けてはいたが、元気そうであったのだ。

 ああ、生きててよかったと、2人の顔を見た時思ったのだ。

 

「すまない。

 私のせいで辛い思いをさせてしまって。」


 心から2人に謝罪したのだ。

 しかし、2人ともどんな結果であろうと、私とともに戦う事は自分で決めた事であるから、謝る必要はないと言ってくれたのだ。

 

 だから、今は絶望はしていないのだ。

 そして、ブラック様が会いにきてくれた時、一つだけ希望を聞いてくれるとのことで、私は本を読ませて欲しいと言ったのだ。

 するとブラック様は私に好きなだけの本を与えてくれたのだ。

 魔法は使えないが、それは500年もの間そうだった事となんら変わらないのだ。

 もちろん、牢の中であり不自由な生活ではあるのだが、本当の意味での心の辛さは無くなったのだ。


           ○


           ○

         

           ○


 プランツの尋問が終わった後、ブラックと幹部達が集まって、反乱を起こした魔人達の処分を相談していたのだ。


 結果としては無期での拘束となった。

 ユークレイスなどは、私への反逆は死罪のみと考えたようだが、それは却下したのだ。

 500年前の異世界への移住を決断した事が今につながっていると思ったのだ。

 少なくともきっかけを作ったのは自分であるのだ。

 舞に言われなくても寛大な処分にはするつもりだったのだ。

 まあ、しばらくは牢に入っててもらうが、そのうち国のために働いて欲しいのが本音なのだ。

 今後、人間との付き合いを再開する上で、人間についての情報は重要なのだ。

 500年もの間、人間として暮らしていた者達の知識、経験を無にしてしまうのはもったいないのである。

 まあ、私自身も、色々と聞いてみたいことがあるのだ。

 この500年で人間の生活がどれだけ変わったかに興味があるのだ。

 

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