第46話 洞窟の先の世界

 私はまだ自分の世界には戻っていなかった。

 城での戦いの時に光の鉱石を使い果たし、元に戻るための量が採掘されるのを待っているのだ。

 まだまだ時間がかかりそうだったが、カクは嬉しそうだった。

 まあ、こちらに来てから1ヶ月半くらい。

 このくらいなら、お父さんも捜索願は出さないだろう。

 そう祈る事にした。


 ただ、私も帰る前に心残りがあるのだ。

 魔人の世界に連れて行かれた、元シンブであるプランツの処遇についてだ。

 あの時、落ち着いたら是非城に来てくれとブラックから話があったのに、全く音沙汰がないのだ。

 王様など国同士のやりとりはしているようで、今後の洞窟のゲートを通しての交流について、話し合いがなされてはいるようだ。

 気軽に行き来できるまでには、まだまだ時間はかかるようだが。

 数年という時間は人間にとっては長く感じるかもしれないが、魔人にとってはほんの一時なのかもしれない。

 私にとっても数週間はとても長いのだ。


 そう思っていた時である。 

 カクの家の使用人の者から、私に面会したい人が来ていると知らせに来たのだ。

 私が外に出ると、金髪のとても綺麗な女性が立っていたのだ。

 あの時、城の周りの地形を元に戻してくれた魔人なのだ。


「こんにちは。

 ブラックの代わりに迎えに来たわ。

 今からこっちの城にこれるかしら?」


 私は緊張して答えた。


「もちろんです。

 すぐに支度をします。」


 私は大急ぎで準備をして外に出た。

 その人は近くで見ても、女性の私が見惚れるほど、とても綺麗なのだ。


「ふふ、私に見惚れるのはわかるけど、私の腕につかまって。」


 私が彼女の腕を掴むと、一瞬で洞窟の入り口まで移動したのだ。

 やっぱり魔人ってすごい。

 

 洞窟の入り口には警備の人間が立っており、誰でも向こうの世界に行ける状況にはなっていなかった。

 しかし、私達を見るなり警備の人は問題なく中に入れてくれたのである。


「ここまでしか無理なのよ。

 洞窟は歩かないとダメでね。」


 私は何回か洞窟までは来た事はあったが、洞窟の先に行くのは初めてだった。

 カツカツと私たちの歩く音のみ響いていたが、私のドキドキする心臓の鼓動の音も、外に出ているかのように感じたのだ。


 洞窟を少し歩くと、明るい光が見えてきた。

 その先には広い草原と岩山が連なっていたのだ。

 そして心地よい風を感じたのだ。

 こちらの世界も洞窟は岩山の一角に存在しているようだ。

 だが、そこから歩いて下に降りれる部分はなく困っていると、私の手を掴み大きな城の近くまで、瞬時に移動したのだ。


「素敵なところでしょう?

 私はこの世界もさっきの世界もどちらも好きだわ。

 私はジルコン。

 ブラックとは長い付き合いよ。

 そうそう、ブラックのお気に入りだったハナさんとも色々な話をしたわ。

 見た目はたしかにハナさんに似てるけど、中身は違う感じね。

 とても強そうだわ。」


 そう言うと、城の扉を開け、案内してくれた。

 ・・・強そう。

 確かに話に聞くハナさんの方が大人しいイメージはあったから否定は出来ない。


 城の中には色々な魔人達が仕事をしていた。

 私がキョロキョロして周りを見ていると、周りの人達も私達を見ているのだ。

 人間が珍しいからかと思ったが、よく見ると目線はジルコンを見ていたのだ。

 同じ魔人でもやはり目を惹く存在のようだ。

 私などではないのだ。


 そして、ジルコンが立ち止まり、ノックをして大きな扉を開けると、そこには何人かの魔人が座っていた。

 中心にはブラックが座っていて、その周りにも見た事がある魔人がいたのだ。


「ブラック、大事なお嬢さんを連れてきたわよー。」


 ジルコンがそう言うと何だか照れるのだ。


「ああ、久しぶりですね。

 私が行くと言ったのに、かってにジルコンが向かったのだよ。

 すまないね、驚かせてしまって。」


 ブラックは以前と同じ紳士的な態度で迎えてくれたのだ。

 そして、ブラックは周りにいる幹部の魔人達を、紹介してくれたのだ。

 みんな、ハナさんを知っており、私を見るなり似ていると話していたのだ。

 単に、東洋系の女性が珍しいだけではないかと少し思った。

 この世界では黒い瞳で、黒い髪の女性がいないのだ。


 私は出されたお茶を飲みながら、プランツのその後が気になっていたので、思い切って聞いてみたのだ。

 ブラックは表情を変えずに答えたのだ。


「きっと、気になってる事かと思っていたよ。

 大丈夫。

 ちゃんと生きていますよ。

 まあ、ユークレイスの尋問は辛かったと思うけど、現在も投獄中ですよ。

 魔法が使えないところにいるから、何か行動を起こす事は出来ないしね。

 でも、本が読みたいと言っていたから、色々な本を読ませるのは許可していますよ。

 彼の知識は魔人と人間であった時の両方であるから、とても貴重だと思うのだよ。

 そのうち、この国の為に働いてくれると良いのだけれどね。

 まあ、しばらくはそのままかな。

 他の者達も同じ扱いにしていますよ。

 ・・・全く気持ちがわからないわけでは無いからね。」

 

 私はホッとしたのだ。


「そうそう、お嬢さんがプランツに最後に渡した薬。

 あれは何だったのかな?」


「あ、知ってたのですね。

 あれは、ただの気持ちを楽にする薬ですよ。

 精神不安を改善させる漢方にこちらの鉱石を合わせた物です。」


 そう、私がプランツに渡した薬は


 サイコ、オウゴン、ハンゲ、ケイヒ、ボレイ、ブクリョウ、タイソウ、ニンジン、リュウコツ、ショウキョウ、そして水の鉱石の粉末が入ったもの。


「ああ、そうだったのだね。

 私は辛い時に自分の命を絶てる薬かと思ったよ。

 少なくとも、プランツはそう考えたと思うよ。」


 ブラックは笑いながら話したが、そんなふうに思われてたなんて。

 私が自殺を促す薬を渡したと思われていたようなのだ。


「私は二度と闇の薬は作らないし、使うこともありませんから。」


 その後は自分の世界の話をしたり、魔人の国の話を聞いたりと楽しく過ごしたのだ。

 ハナさんの時代とはだいぶ違うので、ブラック達は興味深かったようだ。

 そして、あっという間に時間は過ぎたのだ。

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