第39話 ブラックの気持ち

 ・・・さて、行くことにするか。


 ブラックは人間達がいる世界につながる洞窟を歩き出した。

 洞窟に張っておいた結界を解除し、昔住んでいた世界に移動したのだ。


 やはり、私は人間が嫌いでは無いのだ。

 この500年人間との交流がなくなった事で何とつまらなかった事か。

 ハナと過ごした数年間がこれだけ年月が経っても、色褪せず輝いているのだ。

 私は魔人らしく無いのかもしれない。

 だから、私は人間の王に共存を求めるつもりだ。

 このハナと作った洞窟を窓口にして付き合っていきたいと思うのだ。

 もちろん、今後も私に刃向うものや、私の計画を邪魔する者には容赦しない。

 人間であっても、それが同じ魔人であってもだ。

 それが私の結論なのだ。

 

 私は魔人プランツからの通信の後、幹部達に自分の考えを伝えた。

 みんなは以前異世界に移住を決めた時と同じに、今回の計画にも協力してくれるのだ。

 部下というより、私の大事な仲間なのである。

 だからこそ、プランツの真意を知った時、私の行動に迷いは無かったのだ。

 

 私が洞窟を出ると人間の警備の者がいたので、少しだけ身体を借りることにしたのだ。

 私自身が人間の城に向かう前に、先に伝えたい事があるからなのだ。

 警備の人間を城に向かわせ、結界を越えれば私自身が行かなくても、私の思念を伝えることが出来るはずなのだ。


 警備の人間は難なく城の中に入ることができた。

 思念を乗せるだけなら、予想通り結界も問題ないようだ。

 人間の王のいる部屋にこの者を誘導して行こうとした時である。


「待ちなさい。

 そなたは洞窟警備の者では無いか?

 なぜここにいるのだ?」


 振り向くと、人間にしては戦闘能力の優れた目つきの鋭い男が声をかけてきたのだ。

 良く見ると、魔獣やクオーツとの戦いの時に中心にいた人物であった。

 話がわかる人物と思われたので、この警備の人間を通し話をする事にしたのだ。


「これはこれは、さすがですね。

 魔獣との戦いも拝見させていただきましたが、人間にしておくのは惜しいですね。

 少し、この警備の者の体を拝借しただけで、危害は加えておりません。

 安心してください。

 私はこちらの王に用事があってきたのです。

 事情により、私自身の本体は後で伺いますが、御目通り出来ますかね?」


 鋭い眼孔で私を見直すと、すぐに人間の王の元に案内してくれたのだ。


「失礼します、オウギ様。

 大変大事な来客がいらっしゃっています。

 こちらにお通ししてもよろしいでしょうか?」


 その者は人間の王に丁寧に私を紹介してくれたのだ。

 さすがである。

 私が魔人の王である事がわかっていたようだ。

 本当に人間にしておくのは勿体無いと思った。


 人間の王も部下の言葉を聞いた途端、全てを理解したようだ。

 この王も、昔交流があった時の王のように有能な人間であるようだ。

 私は部屋に通されると、そこにはあの黒い髪で黒い瞳の娘もいたのだ。


「人間の王よ。

 約束通り返事をしに参りましたよ。

 このような姿でしかお話しできない事をお許しください。」


「やあ、お嬢さん、またお会いできましたね。」


 私は人間の姿を通して、話し始めた。


 はじめは、人間の王もあの娘もとても緊迫した雰囲気であった。

 まあ、無理もない。

 私の意図せず、城の周りにすでに魔人が集結しているのだから。

 だが、私の考えを伝えるとホッとしたようで王も娘も顔をゆるめたのだ。

 そして、外にいる魔人について話をしたのだ。


 今はまだ待機している状態ではあるが、いずれここにも攻撃してくる事、また私自身をも倒そうとしている事を伝えたのだ。

 そのため、今のうちに対抗できる作を考えるように伝えに来たのだ。

 すでに、プランツのしもべの種はこの城中に撒かれてる可能性があるのだ。

 私が人間の王に会いに行くために、結界を一時的に解除したのを狙って魔力を送ると思われるのだ。

 そして、自分の手を汚さず、しもべに人間を倒させる予定なのだ。

 クオーツもそうだったが、自ら手を汚さないあたりが、大した魔人ではないと私は思うのだ。


 私は外にいる魔人達の考えを伝えたので、体を使わせてもらった者から意識を本来の体に戻した。

 洞窟を抜ける前に話していた通り、私の周りに幹部の者たちが集まっていた。


「ブラック、油断しすぎじゃない?

 意識を向こうに持って行きすぎると、こっちの身体が無防備よ。

 私たちが来たからいいものを・・・」


「ブラック様。

 私がしっかりと見守っておりましたので心配ございませんよ。」


 ユークレイスはいつも通りの調子だった。

 ジルコンにはブツブツ言われたが、心配してくれている証拠なのだろう。


「まあまあ、みんなが来ると思ったからね。

 では、計画通り行こうか。」


 私は再度自分の身体で、人間の城に向かったのだ。


 

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