第26話 再会
私はどうしてもこのまま自分の世界に帰る気になれなかった。
今後の魔人の動向も不明であるし、まだ私にも手伝える事があるかもしれないと思った。
それに・・・あの魔人の王が言っていた言葉が気になるのだ。
いったい誰のことなのだろう。
一度、魔人の王であるブラックと話がしたいと思うのだった。
しかし、いつ現れるかもわからない魔人とどう接触したらいいのか。
洞窟の中は見えない壁が出来ているため、こちらから行くことはできないのだ。
それに、私がいられるのも、あと数週間くらいが限度だろう。
音信不通で父が捜索願を出す前には戻らなくては。
やはり、会うのは無理なのだろうか・・・。
今はとにかく、私に出来ることをやるしかないと思った。
私は手元にある漢方で、出来る限りの薬を作る事にした。
もちろん、闇の薬ではなく、人々の病気や怪我の治療になる薬をである。
カクにも手伝ってもらう事にした。
私がいなくなった後は、カクがそれをつかうわけなのだから。
「舞・・・出来る限りのことはしたいと思うよ。
でも、本当にあと少しで帰るのかい?
もう少しここにいるのを延ばせないのかい?」
カクは残念そうに話した。
「あと数週間はいるから大丈夫よ。
その間に、私が持ってきた漢方で出来る限りの薬を作りたいの。
光の鉱石は貴重でしょう?
私が元の世界から行き来するには必要だけど、それよりも薬に使いたいのよ。
私の帰る分だけ残してもらえれば。
ある程度光の鉱石がたくさん取れたなら、私にまた送って。
そうすれば、また来れるしね。」
「・・・そうだね。
もう、会えないわけじゃないしね。」
カクは寂しそうに答えた。
そうなのだ。
元の世界に戻っても、また来ることは出来るのだ。
私も寂しさを感じたが、二度と来れないわけじゃないのだ。
さて、薬の事を考える事にした。
先日調合した、打撲や腫れ、火傷、化膿に効果のある薬はもちろん必須だろう。
それに、精神に働きかける魔法を回避するためにも、光の鉱石の薬は必要なのだ。
貴重なのはわかっていたが、出来る限り作りたいのだ。
それに、疲労回復としての薬。
完全回復までにはならなくても肉体的精神的疲労を改善させる薬もつくっておきたかった。
ジオウ、トウキ、ビャクジュツ、ブクリョウ、ニンジン、ケイヒ、オンジ、シャクヤク、チンピ、オウギ、カンゾウ、ゴミシ
が入った漢方薬で、体力低下や疲労倦怠、食欲不振などに本来使われるが、光の鉱石を調合することで、すぐに、ある程度の疲労回復の効果があるようだ。
今後、もし魔人たちと戦う事になった時に、少しでも兵士の体力回復に役立てられればと思った。
もう一つ、気がかりな事があった。
シンブのことである。
古びた書物に書いてある調合の薬は代々カクの家のみに伝わっており、秘密になっている。
私がいることで、それが公になってしまうのではないかという不安があった。
秘密にしていた理由はやはりあったのだと思う。
闇の薬を安易に作ることは、危険なのだ。
もちろん私が生薬を持ち込まない限り、作ることはできないのだが、今はそれが出来る状態なわけで・・・。
シンブが知ったら、どう使われるかわからない。
やはり、私はこの世界に長居をするわけにはいかないと思ったのだ。
ここ数日、静かな日々を過ごす事ができた。
薬の調合が終わった後は、一人で洞窟の近くに行ってみたのだ。
今も、兵士によって洞窟の監視は続いていたが、それほど深刻な雰囲気では無かった。
以前とは違い、急な攻撃に遭うことは無いからだろう。
私が洞窟に近づいても、周りの兵士は特に止めることは無かった。
先日の魔人の件で、みんな私を知っていたからだ。
私は兵士に挨拶だけして、洞窟の中に入っていった。
中は暗く、シーンと静まり返っていた。
私の歩く音しか聞こえなかった。
怖い感じはなく、とても幻想的な感じがしたのだ。
途中まで行くと、やはり見えない壁のようなもので塞がれていた。
よく見ると魔法陣のような模様が薄く浮き出ていたのだ。
魔人による魔法の壁のようであった。
その後も、もしかしたらと思い、数日洞窟に通ってみたのだ。
しかし、魔法の壁は変わりなく存在しており、先には進めなかった。
今日も無理かと、魔法の壁を見つめ、落胆して帰ろうとした時である。
振り向くと、そこには黒髪の会ってみたいと思っていた人が立っていたのだ。
全く気配を感じる事が無かったので、私はひどく驚いたのである。
「え?・・・え?」
私は動揺して、言葉が出なかった。
「また、お会いできましたね。」
魔人の王であるブラックがこちらを見て、微笑んでいたのである。
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