第25話 魔人対策

 カクと私は魔人たちが去ったあと、兵士たちの状態を確認して、救護所を後にした。

 幸いにも、精神魔法をかけられた兵士もその後、通常通りに戻り、他の兵士も大きな怪我をしているものはいなかった。

 前もって調合しておいた打撲などに使用する薬で問題はなかったのだ。


 洞窟の監視はその後も続けられているようだった。


 あのブラックと言う魔人を信じるなら、しばらくは静かに過ごせるのかもしれない。

 しかし、今後どうなるかは、まだまだ分からない状態なのだ。

 そして、あの魔人の王が言った、昔の知り合いとは・・・。

 色々考えたかったが、ベッドに入るなり、朝まで目が覚めることは無かった。

 本当に精神的にも肉体的にも疲れた長い1日だったのだ。


 次の日、オウギ王より呼び出しがあった。

 今回の対魔人の戦いや、今後のことについての話し合いが持たれるようで、私やカクにも参加するようにとのことであった。

 もちろん私は他国で薬の研究をしている薬師という設定で、異世界から来たことは秘密であった。

 薬にしても研究途中の薬である上、詳しくは話す事が出来ない事も王様から他の幹部たちに伝えてもらっていたようだ。

 ヨクが前もって手を回してくれたのである。


「皆、そろったか。では、はじめる。」


 全員が席に着くのを見ると、オウギ王が王家に伝わる話をしはじめたのだ。


「あのブラックと言う魔人は500年前にもこの世界に存在した者だ。

 王家では、とても人間に友好的な魔人の王だったと伝えられているのだ。

 一部の人間たちとの争いにも、事を荒立てない方向で話が進んでいたのだが、その魔人の王の逆鱗に触れ、全面戦争になったようだ。

 正直あれだけの戦力の違いがあるのに、人間が異世界に魔人たちを追い払ったと言う話になっているのが、解せないのだ。」


「何処かで人間の都合の良いように、話がねじ曲げられているのですな。」


 ヨクが頷きながら話した。


 オウギ王は続けた。


「王家でも魔人の襲来に備えるようにと伝わっており、その可能性は否定できない。

 その戦いについての書物など一切存在しないのも不思議な事なのだ。

 他国との戦争においての記録は残されているのに、魔人との戦いであればなおさら残すはず。」


 シウン大将も苦い顔をして話した。


「記録を残してはならない理由があったのかもしれませんね。」


「まあ、今はそれより今後の事を考えなくてはならない。

 魔人たちが共存を求めるなら、それは受け入れるべきと考える。

 しかし、人間の排除もしくは支配を結論付けた時の対応をどうするかだ。」


 オウギ王は他の幹部たちに向かい、意見を求めたのだ。

 皆の意見はある程度同じであった。


 もしも戦争になった場合、全ての人間の国が協力して戦ったとしても、こちらに大きな被害が出ることは容易に考えられるのだ。

 勝てる確率は少ないだろう。

 やはり、共存を求める話し合いをするべきと言う意見がほとんどだった。

 それもそうなのである。

 2体の魔獣と1人の魔人だけでも大変であったのに、もし軍隊で来られたら、手も足も出ないのがわかっているのだ。

 

 薬師の取りまとめのシンブが口を開いた。


「舞殿の薬についてこちらで一緒に研究するのはいかがなのでしょうか?

 大量生産出来ればこちらも魔人に対抗し、恐れる事も無くなるのではないでしょうか?」


 シンブの話を聞き、他の幹部もザワザワとしはじめたのだ。

 なんとなく嫌な流れになって来た。

 もちろん、理不尽な攻撃に闇の薬を使うことは仕方がないと思うが、初めからこれらの薬を大量生産する事には賛成できなかった。

 魔人だけでなく、人間にとっても、あまりにも危険な薬なのだ。


 それ以前にこの世界ではこれらの薬の使われる生薬が育つことは無いと、ヨクから聞いていたのだ。

 つまりは私が自分の世界から持ってこない限り、大量生産などと言うことは不可能なのだ。


「それは出来ぬ話だ。

 私が特別に舞を呼び寄せたが、研究の詳細をこちらに漏らすことはできない約束になっておるのだ。

 私の信用問題にもなるからな。」


 オウギ王が私の気持ちを察してか、皆に諭すように話してくれたのだ。

 そのため、それ以上その事については、話が上がることは無かった。


 しかし、私を見るシンブの目が気になったのである。


 城から帰ってきて、私はカクに思う事を話したのだ。

 安易に闇の薬を使ってしまったことがよく無かったのではないかと。

 ヨクも、闇の鉱石の粉末は今回持っていかなくて良いと言っていた。

 怪我人の救護を目的に私たちは向かったのに、薬を攻撃として使ってしまった事が問題であったのかもと。

 シンブのような考えの人々に見せることでの危険性をヨクはわかっていたのでは。

 私は先のことも考えずに、浅はかだったのだろうと。


「舞が自分を責めることは無いよ。

 あの時、舞が闇の薬を使わなければ、こちら側のダメージは大きく死傷者も多数出たはずだよ。

 あの時は必要だったのだよ。

 ただ、問題なのはシンブ様だよ。

 昔から優秀だけど、あまり私は好きで無いのだよ。

 祖父のヨクが王室の薬師を引退した理由も・・・。」

 カクが話を続けようとした時、ヨクが家に戻ってきたのだ。


「カク、舞に余計なことは言わなくて良いぞ。私の引退にシンブは関係ないのだから。」


「しかし・・・」

 カクは不満そうだったがそれ以上は話さなかった。


 ヨクは続けた。

「舞、自分の行いが正しかったか不安になったのだな?

 カクが言う通りあの場面では仕方なかったのだよ。舞が機転をきかせた事で多くの被害が避けられたのだよ。

 私もあの魔獣や魔人の力が、あそこまで強いとは思わなかったのだよ。

 魔鉱の武器があればなんとかなると思っていたのだ。

 それに、オウギ様は戦争を望んではおられない。もしも、闇の薬が多く作る事が出来て、戦争が起これば多かれ少なかれ国民が犠牲になることは目に見えている。それを選択するような愚かな王では無いのだよ。」


 ヨクは続けた。


「ただ、シンブは戦争というより、研究のためなら少し行き過ぎることがあるのだ。

 国のためという点では、研究熱心なのは素晴らしいのだが。

 シンブに気をつけた方がいいのは確かかもしれない。」


「そうそう、私はそれを言いたかったんです。」


 カクが頷きながら話した。


「お前がいうとただの悪口に聞こえるだけではないか。」


「そんなつもりはないですよ。」

 カクは顔を赤らめて否定していた。


 私は少し顔を緩めた。

 2人の話を聞いて、少しホッとしたのである。

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