第7話 異世界の事情 Ⅱ

 カクのいる世界は舞のいる世界と同じように、人間が支配をしていた。


 凶暴な動物や魔獣も存在はしたが、人間のような知恵を持つ種族は存在しなかった。

 

 そう、500年前のある戦争を境にこの世界は人間を中心として栄えてきたのだ。


 つまり、500年前までは人間以外の知恵を持つ種族が存在していたのだ。


 かつて、魔人の国が存在し、その500年前の戦争を境に魔人たちは異世界に消えていったというのだ。


 魔人たちは、圧倒的な魔法の力を持っていたが、人間との共存を望んでいたため、国としては、自分たちの生活を脅かすことがない限り、争う事はなかったのだという。


 しかし、人間の中には魔人たちを脅威と考え、討伐するべきと考える集団が出てきたというのだ。

 その集団がきっかけとなり、人魔戦争が起こり、人間が勝利をおさめ、魔人たちを別の世界に追いやったと言い伝えられているのだ。


 ところが、何故かその戦争を記載した書物が全て消滅しており、今現在言い伝えられていることが、どこまで本当のことなのか、誰も知る由がなかったのである。


 カクも、この言い伝えとして異世界の存在を聞いていただけなのである。

そのため、祖父から異世界の話を聞いた時も、半信半疑であったのだ。


 

 そんな中、カクを悩ませる出来事がおきたのである。


 王室に緊急の一報が入ったのだ。

その事で、王様から薬師たちに召集がかかったのである。


すでに、軍事部門のトップ集団も集まっており、何やら、大変なことが起こっている事は、顔ぶれを見れば理解出来るのである。


軍大将であるシウン=ガンより報告が行われた。


 シウンは大柄で鍛えられた肉体と鋭い目つきをしており、誰からも一目置かれる存在であった。

王からの信頼も厚く、軍事における一切を任されていた。

 

「国境の山脈で、岩山が崩れたとの報告がありました。

 国境警備隊に調査をさせたところ、今までなかった洞窟のような穴が存在しており、途中どうしても奥には進めず、見えない壁のようなもので行く手を遮られているとのことです。 

 まだ、原因も何も掴めていない状況です。

 現在はその洞窟の監視のみをする様に伝えております。」


 シウンの報告を聞いて、皆が静まり返った。


 サイレイ国の現王であるオウギ王が沈黙を破った。


 体格は大柄ではなかったが、圧倒的な威圧感を持つ王であった。

 しかし、とても聡明で国民からも慕われているのだ。

 臣下に対しても、気さくに話しかけてくれる王だったため、カクも祖父と一緒にお茶会などに呼ばれたことがあるのだ。


 その王はため息をついた後、こう話し始めたのだ。


「洞窟…この言葉に思うことがある。薬師の長老達も気づいたのではないか?」


 オウギ王は、薬師の現、取りまとめ役でもあり、王の指南役であるシンブ=ハンを向い話し始めた。


「その通りです。

 さすがです、オウギ様。

 我らよりまだまだお若いのに、あの言い伝えを詳しくご存知ですとは。」


 シンブは真剣な顔でこう付け加えた。


「かつての魔人達は異世界に繋がる洞窟へと消えていき、洞窟自体も消滅したと言われております。

 もし、その言い伝えが本当であるなら、洞窟の出現はまた異世界との繋がりが出来たのかもしれません。」


 オウギ王はシウン達軍幹部に向かって話し出した。


「まだ洞窟の出現だけであるが、警戒を強めるように。

 いつ戦闘状態になってもいいように、準備をしといておくれ。

 私たちは国民を守る義務があるのだから。」


「御意!」


 軍事部門の幹部達は今後の対応を話し合うため、退出していった。


 残されたカク達はオウギ王やシンブの言葉を待った。


「我らは洞窟をどうするかですな。

 移動や消滅させる方法を考える事にいたしましょう。

 それが出来なければ、異世界からこちらへの侵入を阻止する方法を考えるべきですな。」


 期待に答えたかのように、シンブが話し出した。


その後も、オウギ王と長老達の話し合いを黙って聞いていたカクであった。


 カクは、自分が生まれてからは、近隣の国との戦争もなく、大きな危機というべき経験はしたことが無かった。

 いわゆる、平和な世界に生きてきたのだ。


 そのため、このような国の危機的状況にどう対応して良いかわからなかったのだ。

 もちろん、まだ若造のカクに誰も何かを求める事はなかったのだ。


 しかし、オウギ王がカクに視線を向けた。


「ああ、カク、君の祖父であるヨクにもこちらにくるようにと伝えてくれ。」


 オウギ王は一言だけ、カクに伝えたのである。




 

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