第6話 転移の扉

 カクは、祖父から、この古めかしい書物に書いてある調合について、色々なことを学んだ。


 この国から採掘される鉱石を使用することで、人体に用いる事ができ、大きな効果が得られる薬となる事を知ったのである。

 今までこの魔鉱石を人に使えるとは聞いたことがなかった。実際カクの世界の薬草と調合したところで、それ自身の効果や作用が変わる事はなかったのだ。

 

 つまり、意味が無いのであった。


 しかし、この書物に書いてある調合は違うのである。

 この魔法のような薬があれば、色々な病気や怪我が一瞬で治るのでは無いか?

 これさえあれば、素晴らしい未来が待っているではないか?

 カクは興奮して、寝る時間を惜しんで、その書物を読みふけっていた。


 しかし、闇の薬の説明を聞いた夜は、なかなか眠る事ができなかった。

 一瞬で生命を絶つ薬や、精神を混乱させる薬などがある事を知ったのだ。


 こんな薬がある事が世の中にしれたら、どうなるだろう。

 国同士の戦いの原因になりうるかもしれない。


 カクは、学んでいくうちに、薬の本当の意味での怖さを感じたのである。


 しかし、今現在はこの調合ができる異世界の植物は存在しないという事も祖父から聞いた。

 せっかく調合法を習得しても、その材料が無ければ作る事は出来ないのだ。

 残念にも感じたが、少しホッとした気持ちもあった。

 いざこざの原因になるようなものは、存在しない方がいいのかもしれないと、考えたのである。


 しかし、祖父はこう付け加えた。


 「もし、今後、これらの薬が必要になるときが来たら、手紙を書いて欲しい。 そう、異世界に向けてだ。」


 祖父はそう言い、自宅の薬草庫にある本棚の前に立った。本をどけると、その奥に長方形の扉が付いているのだ。

 祖父は小さな鍵を取り出し、この扉を開けた。

 中には古びた布袋が一つ入っていた。

 その布袋には見たこともない模様が縫い込まれていた。

 その中に手紙を入れて、扉を閉めると異世界に移動するというのだ。


 ただ、条件があると。

 向こうにも同じような扉があり、それを開かないと、こちらから動く事は無いのだと。




 その事を祖父から教えてもらってから、数年たった。

 その扉の鍵は祖父が持っていたため、カクが開けることはなかった。


 もちろん、手紙を書く状況にもなってはいなかった。そのため、祖父の言っていることが本当であるかを確かめる事もなかった。


 そう、今までは・・・。


 

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