第8話 異世界の事情 Ⅲ
すぐに祖父の元に行き、ことの次第を説明した。
「来るべき時が来たのだな。
わしの生きている時代に遭遇するとは、運が良いのか悪いのか。」
祖父は全てがわかっているような口ぶりだった。
そして、すぐに王のところに駆けつけたのである。
「オウギ様、カクより話を聞きましたぞ。
以前お話しした事が現実になったようですな。
また、あちらの世界の助けを求めるべきかと。
50年前にも彼は期待に答えてくれました。
今回もきっと力になってくれますぞ。」
祖父はやはり以前から今回のことを王様と話していたようだ。
「うむ、それが良いかもしれない。やはりいつかまた現れるのではないかと言う、其方の意見は確かであったな。
先代からも色々と伺ってはいたが、やはり洞窟のみで済むとは思えない。」
王家では代々、魔人の襲撃を警戒するように引き継がれていたようだ。
500年もの長き間、平和な世の中が続いており、魔人との戦いが昔話のように伝えられていた。
そのため、国民の間では魔人や異世界の存在など、作り話と考える人たちも多かったのだ。
だが、王家は違ったのだ。
いずれ来るかもしれない魔人達に、対抗するべき備えをしなくてはいけないと。
祖父は王家の仕事は引退していたが、以前の薬師の取りまとめでもあり、王の相談役として絶大なる信頼を得ていた。
「では、早速マサユキに連絡をとりますぞ。」
城を出て、急いで自宅に戻った。
すぐにあの不思議な扉を使い、以前からこちらとつながっている異世界に向けて、助けを求める事にしたのだ。
祖父は手紙と光の鉱石の粉を用意し、古びた袋の中に入れた。
その手紙には見たこともない文字が書かれていた。
あの古びた書物に書いてあった文字とも違うように見えた。
祖父は何故か異世界の文字を知っていたようだ。
「なんと、さすがですね。
異世界の文字も知っているんですね」
「ハハハ、昔、マサユキに教わったのだよ。
異世界には色々な文字や言葉があるらしい。
だが、なぜかこちらに来てくれたときには、お互い何を言っているか、理解が出来たのだよ。
不思議なことにな。」
祖父は先ほどまでの楽しげな顔とは違い、厳しい表情になり、続けた。
「マサユキも薬師と同じような仕事をしているのだよ。
まあ、こちらとは色々事情が違うようだが。
彼の世界にある薬草などが有れば、あの書物での調合の薬ができるのだよ。
もちろん、我々の世界の鉱石がむこうにあれば、同じように作る事もできるのだが。
・・・まあ、そう簡単なことでもないのだが。」
祖父はその事については、それ以上話さなかった。
そのため、カクはもう一つ気になる事を聞いてみた。
「50年前に、そのマサユキ様が来てくれたんですよね。
この国に何があったのですか?」
先程、王と祖父が話していた事が気になっていたのだ。
カクが生まれる前の話であり、特に国の危機的な話を聞いた事は無かったのだ。
「50年前…国の危機ではなく、王家の危機だったのじゃよ。
秘密ではあったが、オウギ様が幼少の頃、原因不明の難病にかかったのだよ。
我一族は以前から異世界との繋がりがあり、秘密の書物も受け継いではいたが、当時、ある理由でもう何十年もの間、連絡は取っていなかったのだ。
しかし、オウギ様の病気をどうにか治したくて、手紙を書いたのだよ。
前にも話したが、向こうも扉を開かなけらば、こちらからは移動しない。
何十年も連絡を絶った状態で、移動することは奇跡でも起こらなければ、無理な話なのだよ。
だが、私はそれにかけたのだ。
毎日のように扉を開けては、動いていない手紙に落胆していた。
そして、1ヶ月くらいしたころだ。諦めかけた時、扉の中身が消えたのだよ。」
「それで、こちらに来てくれたんですね。そして、オウギ様を治して頂いたんですね。今回もきっと来てくれますよ。」
祖父は、扉の中に古びた袋を入れた。そして、部屋の中央に1メートル四方の布のようなものをひいたのである。それには、古びた布袋に描かれた模様と同じものが描かれているのだ。
この世界では鉱石を使って物を移動する事があり、その場合に魔法陣を使う事があるのだ。
しかし、今回祖父が用意したものは、今まで目にした事が無いものだった。
よくある魔法陣よりも複雑で、やはり見た事が無い文字もふくまれているのである。
きっと異世界との移動の時に必要な魔法陣であるのだろう。
本来この世界では、鉱石を使って人など生きている存在を移動する事は出来ないのだ。物資の移動に使用する事が常で、人の転移、ましては異世界からとは、とんでもない代物であるのだ。
我々の一族はなんてすごいのだと、自分もその血が流れていることに、大変な誇りを感じたのである。
しかし、祖父は準備をしながら、心配な事があると、顔を曇らせたのだ。
「以前は手紙のやりとりをしていたが、お互い忙しい身となってからは、月に一度くらい扉を確かめるだけにしようと、マサユキと決めていたのだよ。
本当に何か困った時に手紙を書くこととし、何も無いのが平和な証拠としようと。
魔人の襲撃の前に連絡がとれるといいのだが・・・。」
なるほど。
向こうの世界で扉が開かれなければ、どうすることもできないのだ。
開いたとしても、それがかなり後では、私たちの助けにはならないかもしれないのだ。
しかし、カクには何故かそんな祖父の不安より、きっと来てくれるという期待の方が強かった。
今までに経験した事が無い出来事が、今後必ず待っていると。
国の一大事になるかもしれない事が、カクには興味深く、不謹慎ではあるが、楽しみであったのだ。
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