8回目26

 二階堂翼と言えば、日本人なら誰もが知っている名前だ。




 二階堂財閥の長男、俺が異世界に来る前は十八歳だった。




 高校一年の時、グループ会社の一つを任され、僅か一年で世界的企業へと進化させ、その年の『世界で影響力がある百人』に選出、また俳優としても有名で、彼が出た映画は日本の賞を総なめにし、「アカデミ○賞」でも主演男優賞を獲得した。




 性格も歪んでなく、リーダーシップやカリスマ性はもちろんの事、誰にでも優しく、俺も一回目の時はずいぶんと助けられた。




 まさにパーフェクトヒューマンにして新人類。神の子だとしても信じられる位、全てが完璧だった。




 その彼が後少しで来る。俺は浮かれていた。




「ブーからの情報で二日後、二階堂翼が来る」




 司会進行役は史香。淡々とホワイトボードに書く。




 今日の議題は二階堂は敵か否かだ。




 史香達や野子達の情報から、十年周期でラスボスが登場するらしい。




 それを倒し貢献度が一定以上なら選択肢が出てくるらしい。




 但しラスボス討伐戦に参加してないものは対象外で、貢献度が基準に達していても、順位が半分より下のものは、資格がなく、逆に貢献度が基準に達していなくても、その年の上位三人は帰れる。




 俺には全く関係ない話だ。




 何故ならダントツ最下位で、戦闘も全くしていない。




 少しは落ち込んだが、チルチナちゃんもいるし、帰っても底辺の生活が待っているだけなので、のこのこ達に頼んで親に伝言してもらおう。




 そして、今年がラスボスが倒されて十年目。




 過去を含め、この世界では『必ず』転移者がラスボスになる。それを真理や史香は警戒していた。




 条件は確かに揃っている。




 十年目、他の世界にはいない、そしてラスボスになるだけの器。




 平行世界にいない理論は、アルカナの知識にあった理論で、平行時空飛びと言う能力者がおり、その節が立証された。その本人は、戦闘能力が全くなく、本人限定なので、他者を連れてくことができなかった。




 ラスボスとは、世界にとっての魔王、一説には、この世界の神が一年に一回異世界と繋ぐ場所を決定する代わりに邪神は十年に一回異世界人の中から魔王を決定する権利がある。




 過去にラスボスになった異世界人の事を書いた伝記によると、固有能力の上に、邪神から特別な力が与えられるらしい。




 魔王に選ばれた異世界人のクリア条件は毎回違うらしく、魔王に選ばれた瞬間書き換わる。




 誰が選ばれるかわからない。きて早々の人がなるのか、五年目の人がなるのか、二十年近くいる人がなるのか。




 だから、この年の英雄ギルドはぴりぴりしている。




 世界のためにも早く特定したいからだ。




 しかし、今回まだ特定されていない。と、言うことは今回の『異世界召還』の中にラスボスがいるだろうと。




 確率は七割ほどだと、英雄ギルドが出した結論だ。




「翼はそんな奴じゃねーよ」




 京夜は反論するが顔に勢いがない。




 この中では京夜が最も翼と交流がある。




 俺も未来の話だが五年交流がある。京夜の意見に賛成だった。




「しかし、現状では翼の可能性が最も高い。それは分かっているね」




 その心理を見透かしたように、真理がこちらを見つめながら言ってくる。




「信頼、友情、愛情、喜怒哀楽、感情は時として思考を大きく鈍らせる。私達は翼氏を犯人と断定したわけでわない。現状最も可能性の高い人物だから警戒した方がいいと言っているのだ。特にブータンは一人で出歩かない方がいい。皆もくれぐれも情報を漏らないように。ラスボスが情報を知ったら、おそらく真っ先に狙われるのはブータンだ」




 えっ俺。思わず俺は椅子からすっころびそうになる。




 一回目の時は殺される気配もなかった。なのに何故。




「一回目の時、ブータンは自分の能力は何か分からなかった。だから、とるに足らない存在だと認識された。でも今は違う、死に戻りの能力が分かれば真っ先に殺しにかかってくるはずだ。能力を見られれば、『今回』は駄目でも次回以降ここにいるメンツには対策される可能性が高いからだ」




「真理、ブーと違って、私達は『今』しかない。それは分かってる?」




 たまらず史香が反論する。我慢できなかったのだろう。真理の言い分だと、今回でクリアする気がないと言っているようなものだ。




「もちろん分かっているよ。しかし仮に翼氏がラスボスなら、『今回』でクリアできる可能性は低いと考えている」




 俺から見た、真理はいつだって冷静だ、感情のない機械のように、合理的に判断しあらゆる可能性の中から最適解を導き出す。




 そして出した結論は、今回のクリアは無理だと判断した。






 重たい空気がのし掛かるが、野子と永遠とサヤは熟睡中で銃子とエマはそれぞれ銃と刀の手入れをしており我関せず。




「銃子さんやエマさんも何か言ってください」




 あずさが二人に助けを求めるも。




「銃で撃つ」




「刀でバッサバッサと斬り刻んでくれますなぁー」




 と、全く的外れな答え。この二人に常識的な答えを求めるのがそもそもの間違いだ。




「ブータンさんはいいですよね、死に戻る事ができて」




 あずさの中のどうしようもない感情が爆発して矛先は俺に向かってきた。




 そんな時、バシンと史香があずさの頬をビンタした。




「それは言っちゃいけないこと。一番苦しいのはブー。それを忘れちゃいけない。ブーに謝って」




「そうだね、今のは失言だ。ブータンの協力なくしては次回以降の『クリア』もない。それは一回目で立証されている。たとえそれが今の自分じゃなかったとしても、違う自分のためにブータンの協力は絶対不可欠。それに一回一回関係がリセットされ、終わりの見えないクリアを目指す。そっちの方が残酷だと私は思う」




 二人に責められ、たまらずあずさは涙を流し、ここから出て行く。




 今日はこれでお開きとなり、最悪な空気のまま二階堂が来る日になった。




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