2回目09

あずさの死から二週間が経過した。




 前回と変わった点は、ターナが無事依頼を達成してくれた事と、史香が怒鳴り込みにきていないことだ。




 ブラッディーベアはツヴァイに偶然いたランク2冒険者パーティーによって、ターナの報告があったその日に討伐された。そのパーティーはクラン『薔薇の園』の一員で、全員が女性。なにやら作為的なものを感じたが、今更仕方がない。




 酷い話だが史香だけでも生きてくれればなと俺は思う。フラグじゃないからな。俺に出現する恋愛フラグなんてねぇ・・・・・・的な。別に期待しているんじゃないんだからねと、きもい思考に浸っていると、なにやら見たことのある光景。




 冒険者が多く、ここじゃ見ないよう強そうな人。




 嫌な予感がするが、ひとまず英雄ギルドに到着した。




 争う声は聞こえず、安心して扉を開けると、二人の人物がいた。一人は受付にいるコルナ、もう一人は、予想通り史香だった。




 史香は人形のように無表情だった。




 やられる。




 思わず俺は身構えた。




 しかしやられる気配はなく。おそるおそる目を開けると、史香が頭を下げていた。




「私の名前は鈴森史香です。あずさちゃんの為にいろいろしてくれてありがとうございます」


「いっいいんだ。おらの名前はブータンだ。おらの方こそ助けてやれず、すまなかっただ」




 びびったぁ~、思わず下腹部から湯気がでそうだった。前回のことが鮮烈に脳裏に焼き付いているため殺されるかと俺は思った。




 でなくてよかった。そんなんだしたら俺の黒歴史トップ十にランクインするところだ。ちびってもないぞ、信じられないかもしれないが本当だぞ。前回殺されそうになったときは、盛大にぶちまけ・・・・・・もとい、ほんの少しごく僅かちびってしまったが。WS(○禁&失神)の事は俺の奥底に封印してある




 なにわともあれ、多少なまっているが、史香が来たときの事を予想して、脳内シュミレーションしてきた『史香に対する返し方100』が生きた。




 何で自己紹介するときブータンと言ったのかというと、本当の名前を言おうとすると、頭に割れんばかりの激痛がはしるからだ。




 コルナにそのことを相談すると、気の毒そうな顔で、『ステータスで表示するネーム以外の名前を語るとペナルティが発生するの。本来なら魅力が-5000以下か罪人でもならない限り変わらないはずなのだけど』と。




 俺は前回最終ステータスは魅力-1億だよ畜生。




 そんな理由があって、自己紹介するときブータンと名乗っている。




 案の定、史香は固まった。どういうリアクションすればいいか分からないと言った感じだ。




「ううん、あずさは限界だったと思う。男性の顔を見ただけで蕁麻疹がでるような子だから。それに、あずさは綺麗好きで都会っ子で、極度の寂しがり屋だった。あずさからしてみたら、ここは監獄みたいなものだったの」




 とりあえず俺の自己紹介はスルーされ、史香は、鞄からノートを取り出す。それは遺品にあったあずさの日記だった。




 そう、ターナに出した依頼はツヴァイの英雄ギルドにあずさの遺品を届ける事だった。正確には史香宛だ。本当は宿に届けたかったが、場所はしらなかったのでしかたがなかった。






 渡されたノートを見る。それはあずさの悲鳴だった。




 一日目


 怖い、史ちゃんも真理ちゃんも永久ちゃんもいない。同じ世界の人もいたけど、豚みたいな男の人だ。気持ち悪い。普通の男の人にも話しかけられないのに、ハードルが高すぎる。男なんて死ねばいいのに。唯一救いなのは受付の人がコルナさんという綺麗な女の人だった。


 やっていけるか不安だ。




 五日目


 この村に売っている下着の肌触りやデザインがあわないから、毎日夜中に洗って乾かしてを繰り返している。一度朝に洗っていたら、冒険者風の男の人に下劣な視線で見られた。嫌悪感と羞恥心から吐いてしまった。それ以来夜洗っている。もうやだこんな生活。一番清潔な宿でも、臭いがきついし、古くさいし、夜かさかさ音がするし、化粧品や洗顔料ですら月に二回の商人言わないと手に入らないし。つきのものが来たとき不安だ。






 十日目


 つきのものが来た。体が重い。気を使ってコルネさんが持っていた用品をくれたのでちょっと気が楽になった。この村では布を挟むのが一般的だったから本当に良かった。問題なく使えたのだけど、休もう。寂しい。みんなに会いたいよ。






 十六日目


 ようやく月のものが終わった。限界だ。肌荒れや熊やニキビが気になる。ツヴァイに行きたいと何度言っても、一週間に一回来る行商達に同行するか護衛をつけるかしないと駄目だと言われる。一週間前に来た行商の人は男性だから無理だ。女性単独の行商は稀だと言われた。護衛で女性だけと条件を付けて探してもらっているけど芳しくない。お金はいいと言われてるけど、こっちに来る女性冒険者は滅多にいないらしい。ノイローゼで鬱だ。このままじゃ駄目だ。早く会いたいよ。




 二一日目


 レベルも三に上がった。明日、誰もいない朝早くに出発しよう。コルネさんやブータンさんには悪いけれど。あの時、駄目だと思ったけど、二人の会話を聞いてしまった。護衛にかかるお金はブータンさんが代わりに払ってくれていた。金貨五枚はものすごく大金だ。最初以外どうしても嫌悪感があって無視や、きつい目線で見てた。話す事は難しいけど、こんな私のために動いてくれてありがとう。その時、後数日で来ると行ってたけど、ごめんなさい、もう待てない。史ちゃんがツヴァイにいる。そのことを知ったから。


 ツヴァイに着いたらお礼の手紙を書こう。コルネさんとブータンさんに。








 読み終わり、史香に返す。何も言えねぇよ。




 そんなに悩んでいたとは知らなかった。所々に涙の後があった。JKと話した事なんてなかったから、どんなことで悩むのか知らなかった。




 これも言い訳だ。俺はあずさを知ろうとしなかった。さやの事で反省していたのにほんと嫌になってくる。




 どばっと滝のように流れ出る。




 最低だ・・・・・・俺って。




 ○ンジ君の回想シーンみたいだ。




「貴男にはこれだけは見てほしかった。「その事」については、本当に感謝しています。明日帰るけど、ツヴァイに来たときは寄ってください」




 ぺこりとお辞儀して、史香は帰って行く。




 その日は仕事にならず、コルナも沈んだ表情で、早々に切り上げた。




 今日は酒飲んで寝よう。そうしないと眠れそうにない。




 馴染みの食堂で酒飲んだ後寝た。




 そして起きたら森の中だった。




 そう、それは三回目のスタートだった。




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