1回目02
「ブータンおはよぉ」
待ちかまえたかのようにそいつはいた。小さくて、可愛らしい『悪魔』のような存在。
年齢は六歳。最初の頃はつぎはぎだらけの服を着ていたが今は白のワンピースを着ていて、がりがりだった体重も年相応に戻っている。
子供ならでわのぷっくりもちもちとした頬に、ひまわりのような笑顔を浮かべている。
将来は村一番の美人さんになること間違いなしだ。
俺と話してくれる二人のうちの一人で、積極的に話しかけてくれ、笑顔を向けてくれる唯一の存在。
しかし俺は彼女の事を、『リトル・デビル・ガール』と心の中で思っている。
「おっおはようサラちゃん。いっいつも言ってるだが、おっおらの名前は」
「ブータン、サーヤにちょーだい」
小さな手をいっぱいに広げ、アピールする。
「きょ今日は」
俺は分かっていても抵抗する。今日こそは守るんだ、俺の大事な『お金』を。
サヤちゃんはむすっとした表情になる。
「え~、サーヤにくれないのブータン。サーヤ、ブータンの事嫌いになっちゃうよ。もう口も聞かないよ。それでもいーの?」
俺からそっぽを向き、こしゃまくれた顔でちらちらとこちらを見ている。
俺も悪かった。来た当初あまりにもかわいそうな姿に、ついついお金を渡してしまった。
当時は初回ボーナスで懐が暖まっており余裕があり、サヤを捨てられた子犬みたいだと思ってしまったからだ。
それが間違いだったと気付いたのは何時だったか。親が蒸発してひとりぼっちのサヤは逞しかった。俺なんかよりもずっと。
帰ろうとするサヤを引き留める。
振り返ったサヤの表情は、無邪気な笑顔だった。
結局貰った銀貨三枚のうち、二枚をサヤに渡した。
この世界はお札はなく硬貨で、日本円に換算すると鉄貨が一円、銅貨が百円、銀貨が一万円、金貨が百万円。その上もあるらしいが滅多にお目にかかれない。
「ブータンありがとう。だからサーヤはブータンのこと好きぃ」
そう言って、サヤは俺の大きな腹に顔を埋めるように抱きつく。
それが彼女の処世術だが、悪くないと思ってしまう俺は相当な間抜けだ。
それからサヤと、今日はおままごとをして二時間ほど過ごし、わかれる。
うん、サヤといると楽しい。
そう思ってしまう俺は、相当な重症だ。
夕飯まで、まだ時間がある。
今日も宿には泊まれないか。
定宿は一泊二食付きでカード割引で銀貨二枚、手持ちは銀貨一枚なので、今日も馬小屋での寝泊まり決定である。
これが、穀潰しくされニートの一日だ。面白くもなともないだろ。
人生なんてそんなものだ。あきらめてしまったものに幸運なんてものは舞い込まない。最初の戦闘で折れてしまった俺には、ゲームや漫画みたいな展開は訪れない。
キョドっていてデブでニートな俺にヒロインなんてどこからくる。
このまま底辺から脱却できずに、死のうと思っても死ぬ事はできず、病気か、モンスターの襲来か老衰で死ぬだろう。
酒飲んで寝るか。
酒は安い。温くてまずいぶどう酒が銅貨二枚だ。
そうしてかわりばえしない、一日が終わる。
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