1回目03

「ブータンおはよぉ」




 待ちかまえたかのようにそいつはいた。小さくて、可愛らしい『悪魔』のような存在。




 年齢は六歳。最初の頃はつぎはぎだらけの服を着ていたが今は白のワンピースを着ていて、がりがりだった体重も年相応に戻っている。




 子供ならでわのぷっくりもちもちとした頬に、ひまわりのような笑顔を浮かべている。




 将来は村一番の美人さんになること間違いなしだ。




 俺と話してくれる二人のうちの一人で、積極的に話しかけてくれ、笑顔を向けてくれる唯一の存在。




 しかし俺は彼女の事を、『リトル・デビル・ガール』と心の中で思っている。




「おっおはようサラちゃん。いっいつも言ってるだが、おっおらの名前は」




「ブータン、サーヤにちょーだい」




 小さな手をいっぱいに広げ、アピールする。




「きょ今日は」




 俺は分かっていても抵抗する。今日こそは守るんだ、俺の大事な『お金』を。




 サヤちゃんはむすっとした表情になる。




「え~、サーヤにくれないのブータン。サーヤ、ブータンの事嫌いになっちゃうよ。もう口も聞かないよ。それでもいーの?」




 俺からそっぽを向き、こしゃまくれた顔でちらちらとこちらを見ている。




 俺も悪かった。来た当初あまりにもかわいそうな姿に、ついついお金を渡してしまった。




 当時は初回ボーナスで懐が暖まっており余裕があり、サヤを捨てられた子犬みたいだと思ってしまったからだ。




 それが間違いだったと気付いたのは何時だったか。親が蒸発してひとりぼっちのサヤは逞しかった。俺なんかよりもずっと。




 帰ろうとするサヤを引き留める。




 振り返ったサヤの表情は、無邪気な笑顔だった。




 結局貰った銀貨三枚のうち、二枚をサヤに渡した。




 この世界はお札はなく硬貨で、日本円に換算すると鉄貨が一円、銅貨が百円、銀貨が一万円、金貨が百万円。その上もあるらしいが滅多にお目にかかれない。




「ブータンありがとう。だからサーヤはブータンのこと好きぃ」




 そう言って、サヤは俺の大きな腹に顔を埋めるように抱きつく。




 それが彼女の処世術だが、悪くないと思ってしまう俺は相当な間抜けだ。




 それからサヤと、今日はおままごとをして二時間ほど過ごし、わかれる。




 うん、サヤといると楽しい。




 そう思ってしまう俺は、相当な重症だ。




 夕飯まで、まだ時間がある。




 今日も宿には泊まれないか。




 定宿は一泊二食付きでカード割引で銀貨二枚、手持ちは銀貨一枚なので、今日も馬小屋での寝泊まり決定である。




 これが、穀潰しくされニートの一日だ。面白くもなともないだろ。




 人生なんてそんなものだ。あきらめてしまったものに幸運なんてものは舞い込まない。最初の戦闘で折れてしまった俺には、ゲームや漫画みたいな展開は訪れない。




 キョドっていてデブでニートな俺にヒロインなんてどこからくる。




 このまま底辺から脱却できずに、死のうと思っても死ぬ事はできず、病気か、モンスターの襲来か老衰で死ぬだろう。




 酒飲んで寝るか。




 酒は安い。温くてまずいぶどう酒が銅貨二枚だ。




 そうしてかわりばえしない、一日が終わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る