1回目01

あれから一年が経過した。
















































 あ~頭いたっ。




 この村の宿の『馬小屋』で俺は目が覚めた。




 頭ががんがんに響く。二日酔いだ。




 酔ってこんなところに寝ているわけではなく、この藁に囲まれた場所がいつもの寝床だ。




 変わる? あ~そんな時代もあったな。




 意気揚々と村に着いた一年前を思い出す。




 話したくもない。考えたくもない。




 俺の気持ちはあの時がピークだった。




 一つだけ言えるのわ、それは俺は失敗して元いた世界よりもさらに酷くなったという事だ。




 顔洗うか。




 体型はさらに二回りほど太りぽっちゃりだったが豚になった。顔もパンパンマン。




 まさに飛べない豚だ。




 井戸まで行く道のりでも、会う人会う人、蔑んだ目、ひそひそ話。




 誰も彼もが俺を馬鹿にしていた。




 話しかけても無視される。




 今じゃ、この村の住人で俺と話してくれるのは二人だけだった。




 井戸で顔を洗い、幾分かさっぱりした後、無一文の俺は、ある場所に向かった。




 といっても狭い村じゃ目と鼻の先だが。




『英雄の道標』。通称英雄ギルド。




 昔異世界から来た五人の男女が、数々の功績をあげ、その莫大なお金で立ち上げた財団だ。




 目的は俺と同じ異世界から来た人が生活に困らないよう、お金や生活面で保護してくれるありがたいところで、この国じゃ、どの村にも支部があるらしい。




 英雄達も随分苦労したらしく、そんな事を後続の人間にさせたくないとのことだ。




 どこのバブルかとも思うが、こんな穀潰しでも生きていけるのだからありがたい。




 そんな事を考えている内に到着した。




 ほぼ民家と同じ広さで、英雄五人を模した看板がマーク。都会ではもっと豪華らしいが、田舎だとこんなもんだ。




 扉を開けると、受付カウンターがあり、今日もゴミを見るような目で舌打ちを慣らすきつめの受付嬢がいた。




 これでも話してくれる二人の内の一人だから悲しくなる。




 彼女の名前は『コルナ』。ポニーテールに少しつり上がった瞳、この村一番の美人にして唯一の受付嬢で、少なくとも俺は元の世界じゃ話す事もおこがましいほどのレベル。




「ご用件はなんでしょうか」




 ひきつりきって、顎がカクカクするぐらいの笑みを俺に向ける。




「らっ、らくにしていいですよ」




「早く言え、どうせあんたはいつものでしょ、この金喰豚のスカタン野郎」




 表面上は英雄と同じ異世界の人間に対し不利益な事は、この国では法律で禁止されている。




 受付嬢が異世界人に対し暴言を吐くなどもっての他で、ばれれば首になり、余りに非道いと奴隷に落とされる。




 だからこうやって、なにを言っても無礼講と言った体をとる。




 コルナは思った事を口にするタイプで、陰口や後ろでこそこそ話す事を嫌う。




 姉御肌で、口ではああ言っても、優しく、この世界で失敗した当初は励ましてくれて、さっきのも俺に発破をかけている。




 口はだいぶ悪いけど。




 悪いなとは思いつつも。




「でっ、デイリーリークエストその一と二なんだな」




 いつもの依頼を言う。




 コルナはため息をつき、黙って続きを促した。




「きょ今日も生存しています。同期は十二人生存。内、おっおらは貢献度最下位です」




 その一は、生存確認、その二は同期の生存人数と貢献度だ。




 この世界には、ステータスと心の中で唱えれば表示され、レベル、職業、称号、ステータス、同期の生存人数と貢献度が表示される。




 俺だとこんな感じだ。




 レベル:1




 職業:ひきこもりニート




 称号:怠惰なるオーク人間




 ステータス




 筋力1




 敏捷1




 体力1




 知力1




 魅力-100




 生存人数:12/20




 貢献:1(十二位)






 ステータスは簡易版で、詳細なステータスも見れるが、空しくなるから勘弁してくれ。




 ステータスは、異世界にきてからの上昇値で一律1からのスタートだ。




 未だに1だと言うことは、そう言うことだ。




 魅力度は置いとくとしてってだめか。




 はぁ~、気が重いが仕方ない。魅力度はこの世界の住人の好感度で、これはスタート時、全員ばらつきがあると最初に来たとき説明された。




 最初来たとき-10で、今では悪い意味で十倍だ。昔は接してくれた人も・・・・・・気が重い。




 この世界には一年に一回異世界の住人が召還される。なぜ呼ばれるか、理由は定かではない。ある程度は理解できるが、神様じゃないから、答えは分からない。人数は少ない時は一人多いときは数百人とばらつきがある。




 それで、全員がバラバラに召還され、同じ時間に召還されたものは生存人数、貢献度とステータスに表示される。




 この村に来て、最初報告した時、同期で最初だったので随分と感謝された。あのころが懐かしい。




 生存人数は、文字通り生きている人数で一年で八人も減った。それが俺がなかなか引きこもりから脱却できない原因の一つだ。




 俺は毎日かかさずデイリー報告していたから知っている。一日目で三人、三十六日目で一人、六十八日目で一人八十九日目で一人二百六十八日目で一人、そして今日人数が一人減っていた。




 正直言って怖すぎる。どうやって亡くなったか分からない。モンスターに殺されたか、騙されたか、盗賊に襲われたか。俺は運が良かった。初日に亡くなった三人は選択すら与えられずに死んだと思ったからだ。




 貢献度は、この世界に貢献した度合いだ。貢献度によって異世界人の待遇は変化する。




 最初に来たときカードをもらい。




 貢献度




1~50


ブロンズカード




51~200


シルバーカード




201~1000


ゴールドカード




1001~


プラチナカード






 冒険者ギルドもあるが大抵の異世界人は、英雄ギルドと併用して使っている。




 貢献度がある一定に達したり、同期の中でトップになったり、年間貢献度が全体の上位になると神からプレゼントがあるらしいが、俺には縁のない話だ




 俺みたいな屑が生きていけるのはもちろんのこと、ランクをあげると様々な特権があり、冒険者ギルドがない場所でも、英雄ギルドはある。




 異世界人に優しいギルドなのだ。




 最も俺はブロンズカードしか知らないが。




 ブロンズカードの特権は。




・身分証


・各国の渡航権利


・宿屋の優先権


・あらゆる買い物の割引券(5%)


・お金がない場合の最低限の食料と寝床の提供




 これには、すごく助かっている。






 報酬を受け取り、舌打ちするコルナにびくりと震えながら、英雄ギルドを後にした。








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