15、「おぉ報酬!」
前回、数ヶ月ぶりにまともな食事にありつけた一行でした。料理って偉大ですよね。
さぁ金の話です。
ーーーーーーーーーー
15、「おぉ報酬!」
「シャワーだァァ気持ちいいィィ!」
ヒナタはテナ宅のシャワーを借りていた。暖かく清潔なお湯が、ヒナタの引き締まった身体を1ヶ月分の汚れとともに流れていく。
「あぁぁ幸せェェ気持ちいいィィ」
固形石鹸で体を洗いながら、ふとヒナタの頭に考えが湧いた。
「そういえばこの体って……まだなのかな……」
この世界に来た時、レノンはヒナタの事を高校生くらいと形容した。
その表現は正しく、実際に高校時代の体型をしている。特に身長とバストが。
(バストサイズ下がったの……、まぁ便利だけど悔しい……)
体は10代後半に差し掛かったタイミングだ。であれば、ここ1ヶ月で遭遇していないものがある。いわゆる女の子の日だ。
「内蔵とかはちゃんと生後1ヶ月なのかな」
ヒナタは下腹部を擦る。
「レノンさんに相談……は辞めておきましょう」
そこまで考え、付随してある考えが浮かぶ。
「服とか日用品とか、早く買い揃えたいなぁ」
「服とか買いに行かないとなぁ」
同時刻、テナの家の2階の客室で、俺はそう呟いた。今までサバイバルで集めてきた資材を、明日売りに出かけなければいけない。
情報を聞くためテナを見やる。テナはルナと話しながら、ルナの髪を梳かしている。
「ルナってオッドアイなの?」
「あ、はい、実は……」
「一見じゃ分からないわよね。青と青紫色みたいな色で同じに見えるわ」
「あんまり見ないでください……恥ずかしいです……」
「えぇ可愛いじゃない!」
俺は話の折を待ち、テナに声をかけた。
「テナ、この街で毛皮とか肉とか石とか買い取ってくれる所ある?」
テナは俺の問いに、ルナの髪を梳かす手を止めない。
「それなら、街の中心に魔法道具店があるわよ」
「魔法道具店!」
それっぽい単語に激しく反応してしまう俺。明日はそこへ行ってみよう。
翌朝。
「閉まってるんかい」
テナが話していた魔法道具店に出向いてみたところ、閉店していた。
「開店時間がまだって訳でもなさそうね……」
テナが申し訳なさそうに項垂れる。俺はアハハと笑って見せた。
「そういうこともあるさー」
というわけで、テナの提案でとりあえず昨夜訪れた役所に来てみた。ちなみにヒナタとルナは留守番でいない。
例の如くテナは無礼に町長を呼び出す。
「おはようございまーす、町長いますー?」
「おぉテナ!」
これまた昨夜と同じように、気さくな中年男性が奥の部屋から顔を覗かせた。
「いい所に来たねテナ。それにレノン殿も」
どうやら町長は俺達の訪問を待っていたようだ。何の話か一瞬理解出来なかったが、町長は昨日より陽気だし大丈夫だろう、と俺は高を括る。
「昨日のキョクガイダイショウ討伐の報酬について、話があったのだよ」
「あ……!」
「おぉ報酬!」
俺もテナも、報酬と聞いてテンションが上がってしまう。町長はそんな俺らを見て笑った。
「ハハハ! 我々もかなり迷惑していたんだ。これで安心して森に出ることが出来るし、枯れた土地も戻るかもしれん。報酬は弾みますぞ! ざっと計算して10万ゼンはくだらん! 少し待っていておくれ」
幸運なことに、何も売らずに10万ゼンを得た。初めてこの世界の、否、この地域の通貨単位を俺は耳にした。ゼンと言うらしい。
(10万ゼン……日本円換算でいくらだ……)
俺は呆然と思ったが、調べる方法は精々物価感覚の差だろう。日本円で100円程度の物が、ゼンではいくらで買えるのか、感覚的に会得するしかない。
「良かったわねレノン。それ売る必要なくなったじゃない」
テナのドヤ顔の影には、安堵の表情が隠れていた。
賞金が貰えるということで、休んでもらっていたヒナタとルナにも役所に来てもらった。ルナは昨日テナに貰った服のフードを深く被り、ヒナタはナナミに借りたのか、青藍の柔らかそうなパンツと撫子色のシャツをスタイリッシュに纏っている。
「報酬なんて! 凄いですね!」
「全部ルナのおかげだね。ありがとうルナ」
「わ、私は……レノン様をお守りしただけです」
「うん、ありがとう」
程なくして町長ともう一人、背の高い上品な初老の男がやってきた。
「お待たせしたね、こちらうちの安全課のスーだ」
「スーです、よろしく。お噂は聞きましたよ。キョクガイダイショウを討伐されるとは実にお見事です」
スーは片眼鏡をそっと指で触れた。立ち居振る舞いが落ち着いていてかっこいい。
「いえ。たまたまですよ」
俺は謙遜してみせるが、スーの全てを見透かすような優しい目で見つめられると、つい赤面しモジモジしてしまった。
そんな俺を見てなのか、テナが極めて小さな声でボソッと言う。
「キモ」
さすがに傷ついた。
俺たちは町長らに、応接間のような部屋に通された。譲り合った結果俺とヒナタが席に着き、テナルナはその後ろに立つ形に。
「レノンさんは事情をご存知ないかと存じます故、簡単にご説明させて頂いても?」
スーの心地よいさざ波のような声に、俺は「はい」と自動返答。
「では……」
スーは一呼吸置き、こんなことを語った。
ひと月ほど前。ここトート村ではあることが問題になっていた。それは、春になってから強力な雑草が道や建物の屋根、畑などに繁茂していたことだ。
これまでこんなにも強い雑草が現れたことはなかったらしい。切っても切っても数日で背丈ほどの高さに再生し、根は強く張りすぎていて抜くことも出来なかったという。
このままでは生活も商売も上がったり。畑からも栄養分が失われる事は勿論、そもそも耕作面積が保てない。
そんな深刻な問題に頭を悩ませていた時だった。ある日の朝起きてみると、町中の植物が枯れ果てていた。
強力な雑草が駆逐できたのは喜ばしがった。しかしその後でいくら野菜の種を撒いても、全く発芽しなくなった。
あらゆる手を尽くし切ったが、結局畑廃棄を吹き返すことは無かった。
調査の結果、町を円の中心として周囲の土地が死んでいることがわかった。そして同時に活性化、姿を頻繁に現し人を襲うようになったのが、かのキョクガイダイショウだった。
これでは死の円形土壌の外に畑を作ろうにも危険で手が出せない。討伐依頼が正式に町役所から出されるも、討伐に向かった腕の経つハンターの類は全滅。多くが犠牲となった。
植物の死滅はキョクガイダイショウの毒によるもので、この辺りにやってきたキョクガイダイショウが巧妙な手口で村を襲撃していた、と考えられる。しかしそれがわかった所で手の打ちようがなかった。
「……と、大まかにですが」
スーはそう話を括る。
俺たちがキョクガイダイショウを討伐した事で万事が解決するのだ。報酬額も嵩みに嵩んで、10万ゼンという町長曰く大金へ成り上がったのだろう。
俺は表面上それを肯定するように「なるほどなるほど」などと頷いて見せた。
しかし、気になる点が多すぎる。恐らくこの件は、何も解決していない。それなのに町長はこんなに喜んで、全てが解決したような笑顔だ。
(土地が死んだのは別に理由があるな。むしろ土地が死んだことでキョクガイダイショウが浮き彫りになったんだろう)
俺は気が引き締まるのを覚える。
「まぁそんな経緯がありましてな。今回の討伐報酬は私が想定したより多額になっておりますぞ」
まるで自分が報酬金額を貰うかのような笑顔の町長。根っから町のことを想っているからなのだろう。
「私も驚きました。恐らくこの町史上最高額かと存じます。四人を代表してレノンさん、お受け取りください。報酬金の13万7200ゼンです」
受け取った小袋は、ズッシリととても重かった。
次回「分からないって、不安だよね」
With 'Life'〜バイオロジストの異世界出張〜 すみ @sumi0writer
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