14、「……プハァ!!! うめぇ……!!!」

前回、テナが叱られました。いいパパですね。町長のキャラが描いてて楽しい。

久々に文明に触れるレノンとヒナタにご注目です。

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14、「……プハァ!!! うめぇ……!!!」



 俺たちはテナとフィリップに促されるまま、とある飲食店にやってきた。入口上部には看板が設けられているが、字が読めない。

 お礼に飯を奢られるのかと思ったが、ここがテナやフィリップの自宅らしい。


「メシ処をやっててね。2階は宿になってる。どうだ泊まっていくか?」

 店に入りながらフィリップが言う。無一文である事をそろそろちゃんと説明しなければ。


 中に入ると、趣のある西洋の木造建築だった。10卓ほどの客席とキッチンに面したカウンター。建物の奥には2階へ続く階段がある。客はカウンターにチラホラ程度。


「お礼に夕飯を奢らせてくれ」

 やっぱり普通に奢られるようだ。

「いやぁそれは……正直めちゃくちゃありがたい……!」

 この状況で遠慮できるほど、俺とヒナタの理性は強くなかった。人の作る料理と聞いては、唾液だけでなく涙まで出る。


「じゃそこに座って。テナもまだだろう、着替えて一緒に食べなさい」

 フィリップはそう言いながら、キッチンの方に消えた。


「そこで待ってて、あたし着替えてくるから。ルナ、服持ってくれてありがとう」

「いえ、どうぞ」

 ルナはおずおずと、汚れた服をテナに渡す。いつもよりしおらしい。


「どうしたの?」

「いえ、こんなお店初めてで……人間様も多かったですし……」

 テナの問にルナは答えた。ルナの耳は横に畳まれ、更に手で耳を隠している。


 ふと察した俺は、テナに声をかけた。

「テナ、もしあれば、ルナが着れそうなフード付きの服貸してくれないかな」

 手を合わせてテナに願う。すぐテナはその意図を理解し「仕方ないわね」と笑った。


「ルナ、一緒に行きましょ!」

「あ、は、はい!」

 ルナの手を少し強引に引き、テナは階段の上へと消えていく。


「耳、隠したいんですね」

 寂しそうな目でヒナタが呟いた。

「うん、そうだと思う」

「確かお姉さんがこの町に」

「……あぁそうか、だからずっとキョロキョロしてたんだ」

「会えるといいですね……いや、会わない方が或いは……」


 俺とヒナタは、いつかの夜を思い出した。

「人間に抱かれるための種族ねぇ」

「悲しいことですが、この世界ではそれが当たり前なんでしょうね」

「だねー。それが喜びだと教育された」

「やるせないです」

「俺たちはそんなつもりないとしても、周りはそういう目で俺たちを見る」

「町長のことですか?」

「まぁ、あの人は思慮深くて助かったけど」

「そんないい人ばかりじゃない。ですね」

「うん」


「あなた達がキョクガイダイショウを?」

 突然女性が話しかけてきた。手には木製ビールジョッキが2つ。定員らしい。

「あぁいやまぁアハハ……」


「テナが世話になったわね。好きな物なんでも食べて頂戴! あ、あたしはテナの母のナナミよ」

「お母さんでしたか!」

 驚いてしっかり顔を見れば、ナナミは惜しみない笑顔が素敵なとんでもない美女だった。


「お母さんお綺麗ですね!」

 思っていたことをヒナタが口にし、俺は一瞬ドキッとする。

「もーやぁねぇ何も出ないわよ! ほら飲んで、注文あったら呼んで頂戴」


 豪快な喋りでそう言うと、カウンターの客から声が上がった。

「ナナミさーん、ビール3つ」

「ほら、あんな風に」

 ナナミはウィンクしながら、声を上げた客を親指で指す。そしてすぐ振り向いて対応に向かった。

「はいはい、ビール3つね」


「美人ですね……テナちゃん将来有望です」

「だねー」

「思いっきり鼻の下伸ばしてましたね」

「伸びてない」

「ほんとですかー? 一目惚れ……! みたいな顔してましたよ?」


 俺の真似らしい表情を作ってからかってくるヒナタ。さすがに俺はイラッとして、無視してビールを喉に流し込んだ。

「……プハァ!!! うめぇ……!!!」




 程なくしてルナテナが戻ってきた。テナは淡い黄色のシャツにオーバーオール。ルナは白いワンピースにフード付きの黒いベストを羽織っている。

「ルナちゃんかわいい! 似合ってるよ!」

「そうよね! 後でちゃんと髪も梳かしてあげるわ」

「うにゃぁ……そういうのいいですよぉ……」


 モジモジと落ち着かない様子でフードを被り、顔を隠すルナ。よく見ればオッドアイだと気付く瞳を潤わせ、頬を真っ赤に染めて恥じらう姿も愛らしい。ヒナタはルナを抱きしめた。

「はああ可愛い」

「うにゅぅ……」


 俺は固唾を飲んだ。

(すごく可愛いけど、あの大蛇を一撃で瞬殺したんだよな……)

 ギャップ萌えならぬ、ギャップ萎えと言ったところか。


「ほら、皆でご飯にしましょ! 私すごくお腹空いた!」

 我慢ならないヒナタの音頭で、この世界に来て初めてのマトモな料理を堪能することに。


 とは言ってもこの世界の料理なんて分からない。注文は全てテナに任せ、俺とヒナタはビールを体に流し込む。

「あああ美味いっ!」

「久々のお酒美味しい……!」


 運ばれてきた料理は、やはり知らないものばかりだった。中には見た事あるような物や、聞いた事のありそうな料理名だったりしたが、さすがは異世界。素材から違うのだから、調理法が異なるのも頷ける。


「さ、どんどん食べてね」

 テーブルに乗り切らないほどの料理を並べたナナミの合図で、俺たちは料理を貪り始めた。

「美味そう……頂きます!」

「「「頂きます!」」」

「召し上がれー」

 ナナミは俺たちの食いっぷりに、満足気にニッと笑った。


 久々に食べる料理の味は素晴らしかった。初めは俺もヒナタも知らない食材に躊躇したが、食べてみてビックリ。かなり美味い。

 全体的に肉料理が多かった事は今まで通りな印象だったが、様々なスパイスが効いていたり、サバイバルでは作り得なかった揚げ物や、麺や乳製品などの加工食品との組み合わせで、完全に別のものだった。


 テーブルいっぱいに並べられた料理は、あっという間に4人の胃の中に消え失せた。

「美味しかったぁ」

「美味しいものいっぱい食べるって究極の幸せです……」


「人間様のお料理なんて初めて頂きました。美味しかったです」

「ん? 今俺ら煽られた?」

「あごめんなさい! そんなつもりじゃ!」

「アハハは、ごめん冗談だよー」


「あたしも久々にこんなに食べたわ」

「そうね、沢山食べたぁ」

「フィリップさん、ナナミさん、ご馳走様でした!」

 俺の挨拶に、皆が続いた。

「「「ご馳走様でしたー!」」」


「あぁ! いい食いっぷりでこっちも嬉しいぞ」

 フィリップが元気よく応える。

「あなた達、良ければうち泊まって行きなさい! テナに旅の話を聞かせてあげて頂戴!」

 続けてナナミが言う。


 俺は渋い顔になった。美味い飯での現実逃避も限界が来たようだ。キッチン横に駆け寄り、俺はコソコソと二人に伝える。

「あのー実は、ほぼ無一文でして……」

「アハハハハハ!」

 爆笑したのはナナミだ。


「あんた真面目ねぇ。気に入ったわ。お金は取らないから、交換条件にしましょ」

 ナナミは何を企んでいるのか、また満面の笑みを向けてきた。その横で不吉な事に、フィリップがやれやれと言うように力なく笑った。


(何ですかその不安な笑い方は!? フィリップさん!?)

 俺が反応に困っていると、ナナミは押し切るように強く「ね!」と見えない圧をかけてくる。

「あ、はい……」

 そう答えるしか無かった。




次回「おぉ報酬!」

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