13、「心配したんだぞ」

前回、テナと出会って早々にモンスターに襲われ、ルナが無事倒しました。グロ要素もありちょっぴりお色気もあり。あは。

さて、キョクガイダイショウはいくらになるのでしょう。

ーーーーーーーーーー


13、「心配したんだぞ」



「はい! 洗えましたよ。ごめんなさい、やっぱり少し匂いが……」

「う……そうよね……」

 ルナは元々していた作業を再開、完遂した。咄嗟のことで服を地べたに置いてしまったため、クソクサコガネの糞に加えて土汚れが着いてしまっている。


「ごめんね……」

 ヒナタが謝る。テナは明るく笑った。

「まぁ、別にお気に入りでもないしいいわ。でもこの毛皮、貸しておいてくれない?」

「うん、もちろんいいよ」

「ありがと。さすがにこれ着るのはね……」

 3人はルナが持つテナの服を見やる。


「そうよね……。あ、今更だけど、私ヒナタ。こっちがレノン」

「私はルナです!」

「ヒナタ、レノン、ルナね。テナよ、よろしく!」


 俺にはテナのよろしくが覚えておけという意味に聞こえてならない。


「よし、と」

 俺はテナの指示通り、キョクガイダイショウの頭にロープを巻き付けた。持って帰って「討ち取ったりー!」とやりたいらしい。


 しかし頭だけでも羊ほどの大きさがある。無数の棘を除けば一般的な蛇の顔だが、特徴的に鼓膜が大きかった。耳がよく、俺たちの騒がしい声やテナの悲鳴を聞き付けて来たと推測できる。


 それだけでは無い。最も驚かされたのは、体が温かいということだ。本来ヘビは変温動物であり、触れるとひんやり感じるものだ。体が大きい事が理由なのか、恐竜と同様このヘビは恒温動物らしい。

 それなら夜間の狩りに納得がいく。


「テナちゃんはモンスターって言ってましたけど、どう思いますか」

 妙に真剣なテンションでヒナタが聞いてきた。

「うん、普通に生き物だ。動物学も解剖学も、生理学も通用する」

「やっぱりそうですよね……!」

 少し高揚した声が返って来る。


 俺たちが武器とする科学が通用するのは喜ばしい事だ。これからの調査に希望が持てる。俺は科学知識が使えると確信し、拳に力が入った。




 空腹すら忘れた俺たちは、それぞれの荷物と蛇の頭を持ち、テナの先導で町に向かった。

 テナの言う通り、1時間ほど歩くと朧気に街の灯りが見えてきた。俺たちは、俺とヒナタは特に、その灯りに激しく安堵する。


 町は確かに小さなものだった。言うなればアメリカの古いハイウェイに沿って作られた、ガソリンスタンドと宿屋を中心とする小さな町。そう思っていると、本当に街の中心に大きな道が横たわっていた。


 ひとつ違和感を覚えたのは、町が見えてくる30分程前から、植物が消えていったことだ。次第に荒れた土地になり、地面は乾いていないのに雑草ひとつ生えない荒野と化していた。


 テナは真っ直ぐに、大通り沿いの大きな建物に向かった。ついて行くと、そこは役所のような場所らしい。異世界漫画でよく見る冒険者ギルドのような場所だ。


「こんばんは! 町長いますー?」

 建物の中に入ると、テナは躊躇いなく大声を出す。礼儀とか大丈夫なのかと不安になったが、直ぐに帰ってきた声はとても気さくで明るかった。


「はいはーい? その声はテナかい?」

 奥の扉からふくよかなスキンヘッドのおじさんが出てきた。目がクリっとまん丸で可愛い印象を受ける。


「コレ見てよ! キョクガイダイショウ討ち取ってやったわ!」

「はえ!?」


 町長の目が大きくなった。面白い。などと思いつつ、俺は重たいキョクガイダイショウの頭を町長の前まで引きずっていく。

「なんと……それより怪我は? 大丈夫なのかね? あなた方は……?」


 混乱するのも無理もない。町の誰もが歯が立たないと言う大蛇の首を、精々高校生くらいの女の子が討伐して帰ってきたのだ。オマケによく分からないみすぼらしい3人組を引き連れて。


「我々は調査をしながら旅をしている者です」

 俺は丁寧に受け答えをする。社会的なコミュニケーションが久々で、舌と顎が笑っている。

「この子が倒したのよ、ルナちゃんていうの」

「お、恐れ多いです……」

 ルナは俺の背中に隠れた。


「なんと、それは素晴らしい……ネコ科獣人かね? 主人はあなたですか」

 質問の矛先が俺に飛んできた。

「主人ではなく、この子とは友人です。主従ではない」


 ついトゲのある言い回しをしてしまった。俺は言いながら後悔する。しかしすぐヒナタのフォローが入った。町長に見せるように、ヒナタが腕を組んで来る。


「ハハハ! なるほど、それは失礼。では討伐はルナさんの手柄とするのが筋ですかな?」

「そ、そんな!」


 萎縮するルナ。ヒナタが営業スマイルで言う。

「4人の手柄、でどうですか?」

「4人て、あたしも?」

 今度はテナが萎縮する。


「ハハハ! なるほど、そうしましょう。では皆様のお名前を伺ってもよろしいですかな?」


 こうして俺たちは一夜にして、一躍この町の有名人となるのだった。




 それからすぐ町長は町内放送をかけた。慌ただしく男たちが数人集まって来て、テナはその男連中に地図を見せ、キョクガイダイショウの残りの遺体の場所を教えているようだった。それが終わると男連中は俺たちの方に来、賞賛と歓迎の言葉をかけてくれた。ルナは俺とヒナタの後ろに隠れて過ごした。


 慌ただしく荷車を持って、男連中は意気揚々と回収に向かう。それと入れ替わりで、1人の屈強な髭の男が建物に入ってきた。

「あ」

 声を漏らしたのはテナだ。


 髭男は怒った様子で、テナを睨んだ。

「心配したんだぞ」

「お父さん、それはごめんなさい……」


 髭男はテナの父親だった。テナは父親には近づく。

「ただでさえ娘を一人で山に行くのも心配なんだ。せめて暗くなる前に帰ってきなさいと言っただろう」

「ごめんなさい、時間配分間違えたの」

「あの……!」


 親子の会話に入り込むのも気が引けたが、つい俺は声をかけてしまう。

「俺らのせいでもあるんです。テナさんを足止めしてしまいました」

「君らは?」

「旅の者です。俺はレノン」


 ヒナタは内心突っ込んだ。

(もう調査の話とか面倒くさくなってますやん)


「レノン君か。テナの父のフィリップだ」

「よろしくお願いします。それで色々ありまして、テナさんのお洋服を汚してしまいまして……お叱りを頂いていたらこんな事に……」

「そうなのか?」

「まぁ、そうね。それでこのマントを借りたの」

「うん、服が違くてお父さんびっくりしたぞ」


 あれこれ事情を話すと、フィリップは分かってくれたようだ。最初は怖い人かと思ったが、話してみればとてもいい人。


「そうかぁ、テナを助けてくれた恩人って訳なんだな」

「いや、そもそも俺がクソクサコガネを投げなければこうはならなかったかと……」

「いやいやいいんだ。結果助けてもらったんだ、お礼はさせてくれ」

 図太く力強い腕を肩に組まれ、俺は抵抗を諦めた。

「じゃあ、お言葉に甘えて……アハハ……」




次回「……プハァ!!! うめぇ……!!!」

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