11、「食うもん無ぇわ」
前回、ルナがレノンに夜這い! そこには深い事情がありました。ああいう場合男性って普通は受け入れるんですかね。
さて今回から脱サバイバル。新キャラの香りも……?
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11、「食うもん無ぇわ」
早いものでこの世界に来てから、かれこれ36日が経過した。
とっくに初期食料のクッキーは底を着いているが、ルナのおかげもあって周辺から食べられるものを多く調達することが出来、食料問題は安定。
道具類も未だ石器ではあるが、ガラス質の石を使うことでそれなりの利便性を実現している。同時に木材加工もある程度可能になり、木製の箱や皿、背負子くらいなら用意できた。
服に関しても、初期装備の上に毛皮でつくったマントのような、羽織る物は作ることが出来た。しかしまぁ、定期的に近くの川で水浴びをしているものの不衛生さ極まれり、俺とヒナタは二人してお風呂が恋しくなっている。
更にただ焼いたり煮たりするだけの原始的な料理に飽き飽きし、いい加減に人里に行こう! と俺とヒナタは結託した。
「というわけで、近くの街に行きたいと思います。ルナ、どっか知ってる?」
俺が問うと、ルナは一生懸命に記憶を漁った。
「えっと、私の故郷の村は西にあります。でもお二人には正直オススメしません。あとは南の方に人間の里があります。歩いたら三日くらいかかるかと思います。私のお姉ちゃんはそこに門出しました」
オススメしない理由が気になるが、とりあえず今じゃない。
「じゃー南の街に行ってみようか」
ということで、俺たちは荷物をまとめて南の人間の里に向かうことにした。
手持ちの食料や、売れそうな道具や毛皮、木の実、川で拾った綺麗な石などを背負子にまとめて、俺は意気揚々と背負って立ち上がる。
「ぐっ……」
立ち上が……。
「フヌッ……!」
立ち上がることが出来ない。
「なんで!? これそんなに重いか!?」
「もーパントマイムですかー? 貸してください、よっと」
ヒナタは驚くべきことに、それを軽々と背負って見せた。
「え、全然持てますよー」
「え?」
「え?」
俺は自分がとてつもなく情けなく感じたと共に、ヒナタの女子としてのプライドをズタズタにしてしまったようだ。それからしばらくヒナタは笑顔を見せてくれなかった。
という件があり、ヒナタ、ルナ、俺という順で重いものを背負って歩く。それでも最初にバテたのは俺で、またヒナタの目付きが鋭くなった気がした。
元の世界の体より、筋肉も体格もあるはずなのだが。
(里に着いたら美味しいもの食べさせてあげよう……)
実にトホホである。
俺たちは三日間歩き続けた。大きな川を迂回し、崖を迂回し、谷を迂回し、沼を迂回し……。
「あれ、今日何日目でしたっけ?」
「四日目。道にすら出ない……」
「あれれ……おかしいです……なんで……」
ルナもこの有様だ。
「今日はここで泊まろう。丁度よく開けた場所だし、疲れたし」
焦りは禁物、と俺は二人に伝え、食料を取り出した。
「……あれ?」
食料を取り出し……。
「……んー!?」
移動中用の食料を入れていた麻袋は空っぽ。食糧が底を尽きていた。
「食うもん無ぇわ」
「「……えぇー!!!!!」」
二時間後、暗くなるまで各自食べ物を探し回り、収穫物を木の皿の上に並べた。
成果は小さなキノコと木の実が一つずつ。一人分も腹を膨らますことは出来そうにない。
「まさかなぁこんなにも植生が違うだなんて」
「私も……知らない木ばかりでした……」
「というか、そもそも果実が極端に少ないんですよね……せめて毒々しくても実が成ってれば或いは……」
「初期スポーン神シードすぎだろ」
「ザ☆辛い、ですね」
「だれうま」
「すぽ……しーど……ざっつ……だれう……ふにゃぁ」
「あ、ルナのボキャ貧がキャパ超えた」
「レノさん現代語言いたいだけですよね……、ていうか若干古いし」
「え、古いの……」
ヒナタが火に薪を継いだ。即席の薪なので、生の枝を投じて煙が出る。
「町から見えてないかなこの狼煙」
「夜ですし、新月ですしねぇ……」
「にゃっ!?」
突然声を出したルナ。視線の先の物を見つけて、俺とヒナタは凍りついた。
燃えていく生の枝の中から、ずんぐり太った甲虫の幼虫、イモムシが這い出てきている。
「ヒッ」
「うわぁ」
(見たことある。原住民族とかが食うやつだ)
別に軽蔑とかでは無い。むしろ尊敬だ。よくそんなもの食えるなと……。
チラリとヒナタを見る。ヒナタも俺の様子を伺っていた。
(わかる。お腹空いたけどこれは違うよね)
「ルナは……こういうの食べれる?」
恐る恐るルナに聞くと、物凄く嫌そうな顔を向けてきた。
「さすがに無理です……突っついて遊んだりはしますが……」
「ヒナタさんは野外調査してたんでしょ? こういうの食べたことある?」
無理やり話題をヒナタに繋げたが、ヒナタも嫌悪マシマシな顔をした。
「無理無理、こんなの食べるなんて無理です……うげぇ」
「だよねぇ。お前食われなくて良かったな」
俺は薪から完全に這い出てきた10cmはあろうイモムシをつまみ上げた。イモムシはウネウネと藻掻くが、非力過ぎて抵抗になっていない。
「可愛いんだけどねえ」
なんて俺は、手の平の上で一生懸命に生きようとするイモムシに微笑んだ。が。
「あ、それもしかして……」
ブリュリュリュリュ。
ルナが何が言いかけるが時既に遅し。俺の手の上のイモムシは、突然脱糞した。しかも大量且つ軟便。
「うわ! うんこしやがった! て」
非常に悪いことに、その糞がとてつもない悪臭を放つ。全身に悪寒が走った。
「うわっ臭っ!?!?」
「くっさ! レノンさんあっち行って!」
「にゃぁやっぱり! それクソクサコガネです!」
「糞臭コガネムシ! そのまんま!」
「あっち行ってぇ、息が出来ないです!」
ヒナタとルナは仲良く焚き火の反対側へ避難。俺も自分の手から発される、世界中の悪臭を混ぜて煮込んだような猛烈な匂いに、気が遠くなる。
堪忍袋の緒が切れたヒナタが叫んだ。
「いいからあっちに投げろ!!」
「御免!」
俺は真っ暗な森の中に向けて、クソクサコガネの幼虫を思いっきり投げ捨てた。
「強く生きろよ……」
「何言ってるんですか」
被せ気味のヒナタのツッコミが心地よい。
「すぐに手の糞を拭き取ってください! そしたらこれで洗います!」
「あぁはい」
ルナに言われるまま、俺は茂みり入り枯葉で手を入念に拭う。ルナが着いてきて、手作りの水筒から水をかけてくれた。
「ありがとう」
「いえいえ! すぐ洗わないと匂いが着いちゃうので」
役に立てたことが嬉しいのか、ルナはどこか楽しげだ。俺は少し困りながら微笑む。
そう思ったのも束の間、一難去ってまた一難。
「ぎゃああああ……!」
クソクサコガネを投げた方向から、この世の終わりのような、女性の断末魔が聞こえた。
「「……」」
俺とルナは悲鳴の方向を見、引き攣りながら笑うしか無かった。
次回「うあああ目がぁぁぁ、目がああああ!」
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